3つのif、4つの世界。-「打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?」-【ネタばれあり】
この劇場アニメは、Netflixサイトを訪問すると表示される、私が過去に視聴した作品から、その傾向をAIが予測し、推薦してくるというシステムに乗っかって、観ることにした。
事前情報として少しだけ調べたら、岩井俊二監督・脚本のTVシリーズドラマを、総監督新房昭之、シャフト制作でアニメ化したものと知り、期待を持った。
新房昭之/シャフト制作といえば、私にとっては「まどか☆マギカ」であり、次いで「化物語」シリーズである。その独特の映像演出だけでも惚れ込んでいた。
原作の小学生を、中学生に設定替えしたとのことだが、結果的に、私の期待をかなり上回る作品だったと思う。
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海に面した地方都市を舞台とした、夏の一日の物語である。
及川なずなは、朝、海辺で、謎の輝きを持つ小さな玉を拾う。
なづなは、母親が再婚し、街を離れなばならない日が近づいている。
そのなずなのことを気にする、数名の男のクラスメートがいる。
その中のひとり、釣具屋の息子、島田典道が物語の主人公である。
その典道と特に親しい悪友が、安曇祐介だが、なずなにコクりたい、でも嫌われたらおしまいだと典道に告白する。
典道と祐介は、その日のプール掃除当番だったが、どういうわけかプールサイドになずなが水着姿で横たわっていた。
そして、ふたりに「一緒に泳ごう。勝った方の言うことを、私はなんでもきいてあげる」という賭けをもちかける。
典道は、ターンの際に足を引っ掛けてくじいてしまい、祐介に負ける。
祐介は、なずなとふたりきりになって「今日の夏祭りに一緒に行こう」と誘われる。
そのあと、典道と祐介を含む数名のグループは、花火の話で盛り上がっている。
打ち上げ花火を横から見たら、丸く見えるか平らに見えるかという論争である。
その論争を解決するため、花火をちょうど横から観れる、岬の灯台まで皆で一緒に行って確かめようということになる。祐介もその話に乗ってしまう。
結果的に、祐介は男友達との関係を選び、好きな筈のなずなとの約束を反故にすることをなんとなく選ぶこととなる。
その日の夕方、典道は、浴衣姿でボストンバックを抱えて家から逃走しつつあるなずなと鉢合わせる。
しかし、なずなのボストンバックの中身はぶちまけられ、中からなずなの拾った玉も転び出る。
すぐになずなの母と新しい父になる人が追ってきて、なずなを取り押さえ、引きずって帰ろうとする。
なずなは、「典道くん、助けて」という叫び声を上げるが、見送ることしかできない。
ちょうどそこに現れた男友達グループの中の祐介に、典道は殴りかかり、それを止められると、典道はむしゃくしゃして、掲示板の花火大会のポスターめがけて玉を投げつける。
するとその玉がポスターにぶつかる直前に、怪しい光を放ち、典道は突如「過去」らしき世界へ連れ戻される。
ここからの話の展開は、ネタバレになりすぎるので、詳しい解説は控えたいが、一言で言えば"if"の世界が開かれるのだ。典道はもう一度過去からやり直すこととなる。
ここから、物語は"if"のそのまた"if"へと展開していく。花火を横から観た姿も変化する。典道はそれを観る度に「この世界は何か違う」と思う。
興味深いのは、典道が世界を巻き戻すたびごとに、なずなの家庭の真の状況や、なずなの気もちがあぶり出されることである。
それは、典道の願望充足的妄想というにはあまりに具体的過ぎて、より真実に迫っていく過程であるように思われる。
典道は、世界を巻き戻す度に、自分に正直な決断をするようになる。それによってある意味で世界はどんどん荒唐無稽になって行くのだが、なづなと典道の相互理解は深まっていく。
しかし、それは、結局、なずなは街を去っていくという現実の中での、一夜限りの出来事である。
恐らく、すべてを知るものは典道だけなのだが、その心境は描かれないまま、物語は潔く幕を閉じる。
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新房/シャフトらしい、実に印象的な映像表現だと思う。
不思議な立体感。光と影のコントラスト。
おなじみの、どアップで斜めに振り返る登場人物の仕草。
前半の日常描写は、実写映画としてもそのまま通用しそうな丁寧な積み上げ。それと幻想的な展開との対比。
なずなのキャラクターは、「化物語」の戦場ヶ原ひたぎを思い起こさせる、ミステリアスでツンデレ傾向がある。中学生としては大人びているが、その旨物語中でも説明がある。
重層的な物語が、何のことわりもなく展開するので、そういう作風に馴染めない人には難解だったりするかもしれないが、パラレルワールドものに、かなり多くの人は触れたことがあるはずである。
私は、面白い作風の、秀作だと思います。
音楽も、なかなかいいですよ。
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