NHKスペシャル 「うつ病治療 常識が変わる」への感想(6)
さて、いよいよこの連載、前回に引き続き、このエントリーで最終回です。
前回で紹介した、「非定型うつ病」の現在の診断基準と、その具体的治療法については、実に様々なサイトですでに詳しく言及されておりますので、そうしたサイトをご覧になる読者のご判断にお任せいたします。
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【ここから第2版で追加】
でも、「非定型うつ病の人は、認知行動療法によってアサーティブさ(自己主張能力)を身につけることが必要」
という意見を読むと、
「日本人は、うつ病に限らないこととして、むしろ心理療法全般を受けることによって自己主張能力を身につけたかげで、周囲との摩擦に耐え、孤高の道を歩む苦しみを感じているんじゃないか」
とも思うし、その一方、
「今の若い世代は、生きる糧を得るために働くという経験に乏しく、自己主張的になっているので(!)、昔の人のように、典型的(=DSM-IVで、過去の遺物から突如復活(^^;)した、「メランコリー型」)うつ病になれなくなっている」
という全く正反対の記事を読むと、
「ああ、オヤジの『今の若い者は』のバリエーションに過ぎなくなってる。要するに、古典的うつ病の人のほうが従順で、扱いやすかったという医者本位の愚痴なんじゃない?」
と感じてため息をつくのは、私だけではないと思います。
繰り返します。DSM-IVでの診断基準に適う意味での「非定型うつ病」と同じ病態の人は、昔も今もたくさんいただけです....と。
【ここまで第2版で追加】
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さて、いよいよ、番組後半で取り上げられた「認知行動療法」に関してですが。
認知行動療法についても、この番組に関する、しないにかかわらず、様々なサイトを見ていくと、バランスのいい記事もたくさん見受けらます(お医者さんによるもの、実際認知行動療法を受けた人の体験談etc.)ので、多くはそちらにゆずるとします。
【ここから第5版】
私としての推薦は、
●【認知行動療法とは】 (インチキWriterの棲みか by isshy☆さん)
うつの人のではないのですが、「プロのライターさん」がマジになって書いたら、専門家の入門の文でもなかなか読めないような、これだけ小気味いい紹介の文章になるというあたりに注目!です(^^)
【ここから第4版】
ただし、英語ですが、次の記事の存在は是非お知らせしておきます:
●Petition Against Over-Regulation of Psychotherapy(心理療法への過剰規制に反対する嘆願書) (Moving Toyshop)
この記事は、裕さんのサイトの、
というエントリーで紹介されていたものです。
これについての私の意見はこちらの記事で紹介。
【ここまで第4/5版】
そして、次の点だけ、開業臨床心理士としての私のスタンスを明言させていただきます。
私は、基本的に、ある特定の心理療法が他の心理療法と比較して優れているかどうかという論の建て方に懐疑的です。
いいカウンセラーにめぐり合えば、それが精神分析でも行動療法でも箱庭療法でもフォーカシング指向心理療法でも(!)、さらに特定の心理療法流派を標榜しないカウンセラー(例えば村瀬嘉代子先生や増井武士先生.....来年度から九州産業大学です....)でも、うつ病に関するカウンセリングに関して、的確な見立てと、個々のクライエントさんにふさわしいカウンセリングの進め方、医療の必要性まで、クライエントさんの考えも尊重して、一緒に納得のいく解決を模索していく力があります。
このNHK特集でたっぷりと矢面に立たされたお医者様たちへの公平のために申し上げれば、カウンセラーや臨床心理士の場合にも、専門能力として不十分な場合が「同じくらいにたくさん」見られる点では同じかもしれません。私もまた、多くのクライエントさんに、「未熟なカウンセラー」として記憶に残っていることも少なくないであろうことは十分認識しています。
しかし、それでも敢えて断言します。
標榜する心理療法の流派やアプローチの違いと、「現場」カウンセラーとしての力量とは無関係だと。
むしろ、カウンセラーは、経験を積めば積むほど、
「他の流派のカウンセラーでも、現場臨床的に力量がある人は、根本的なところでは自分と共通のことを自明の前提としてやっている」
ことに気づき、そうした技法についても実際に謙虚に学んでみる姿勢を保てるカウンセラーこそ、実は、その人の標榜する心理療法に限定しても、奥の深い現場臨床での実力を持っているものです。
●参考記事 : 「「オモテ」技法と「ウラ」技法 または収穫逓減の法則 (久留米フォーカシング・カウンセリングルーム)
誠に僭越ながら、私が目指しているのも、まさにそのような、他の心理療法や技法に偏見のないカウンセラーに他なりません。
私がそういうカウンセラーにどのくらいなっていて、現場臨床でも有能かを評価するのは、おいでいただくひとりひとりのクライエントさんに他ならないと思います。
それどころか、クライエントさんに限らず、どんな人間同士でも、他人が自分のことを「誤解する権利(!)」が保障されていなければ、それは「支配」を原理とするファシズムであり、むしろお互いに更に理解を深めるきっかけを失ってしまうものだと確信しています。
(もちろん、「理解を深める」なんてしてほしくない、というクライエントさんの訴えがあれば、それも大事にしたいと思っています。自発的に訴えて下さらなくても、「私はこのクライエントさんにすでに踏み込み過ぎ、それを苦痛とのみ感じさせてはいまいか?」という自問自答はいつもして、チェックしているつもりではいます)
クライエントさんからのどんな苦情や不信の念もぶつけてもらえることを、「クライエントさんが心の中でいつまでも抱え込んでいるだけにならずに済んで良かった」と、少なくとも心の中の「一方の自分」は受け止め、仮に、「他方で」、クライエントさんの誤解を解きたい気持ちがどうしてもカウンセラーの中にある場合にも、そのことでクライエントさんとの溝を深めるだけにはならないだけのことができること。
更に、それが単にクライエントさんの「言いなりになる」ことではなく、クライエントさんにほんとうに役立つ援助へと前進するきっかけになるということが、絵に描いた理想ではなく、試行錯誤を重ねつつも、クライエントさんと共に実現に近づけるカウンセラーでありたいと思いながら、ひとりひとりのクライエントさんと毎回お会いしているつもりです。
(おわり)
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