フォーカシングのアクション・ステップとあずきバー (再掲)
先日の認知行動療法的フォーカシングの試みの記事でもご紹介した、フォーカシングの「アクション・ステップ」とは、具体的にどのようなものかについて、もう少しご紹介してみたいと思う。
以下に述べるのは、あくまでも私流の普段使いのやり方/教え方なので、詳しいことは、ジェンドリンの「フォーカシング指向心理療法(下)」第17章、「行動ステップ」(訳書pp.382-399)、あるいは、より簡略なものとしては、アン・ワイザー・コーネルの「フォーカシング入門マニュアル」
の第3部「フォーカシングを妨げるもの」の3.7「行為についての特別な覚え書き」(pp.83-85)をお読みいただきたい。
*****
- フォーカシングを進めて行った結果、シフトと共に「私は〇〇をやりたいんだ!!」ということに気がついた・・・・というところをスタートラインにするのが一番適切である。
しかも、別々な時に、何回フォーカシングを試みても、結局、フェルトセンスからのご宣託が「〇〇をやる」ということ自分に勧めてくる方向に収束するのに、なぜか実際にはそのことに具体的に取り組む気になれないことを繰り返している場合があるだろう。
例えば、- シフトと共に生じてきた、フェルトセンスからのご宣託:
「私はその人との関係を深めたい。そのためには手紙を書くのがいいだろう」
→なのに、手紙を書き始めても全然うまくまとまらず、繰り返して中途で投げ出してしまう。 - 同じく、フェルトセンスからのご宣託:
「私はやはり社会人入学してでももう一度勉強したいのだ」
→どうしても資料請求のための申し込みのメールを大学に打つ決心がいつまでもつかない
・・・・こうしたケースを想定して欲しい。
- シフトと共に生じてきた、フェルトセンスからのご宣託:
- こうした時に、
アン・ワイザーさん流儀だと、
「私の中の一方には、そのことをやりたい気持ちがある。でも、もう一方には、そのことをやることに抵抗している(恐れている、すんなりやる気になれないでいる)『何か』があるみたいね」
ということを確認して、その両方に対して、それぞれ「わかったよ」と言ってあげるということを試みることができる("feeling about feeling")。
そして、やることにブレーキをかけているもう一人の自分の方に向かって、丁寧にその気持ちを聴いていくつもりでフォーカスするというのも、有意義なことなのだが・・・・
- そうした"feeling about feeling"の方略なら、すでに普段からやり尽くしてきている、というフォーカサー向けの、よりアクティブな提案は、次のようなものだ(ここからが本題!!):
「その行動に踏み切る前に、私の身体がやりたがっている『何か』にまだ自分でも気がつけていないのではないかしら?
それは、そのこと(例えば、ある人に手紙を書くこと)とは一見無関係過ぎるくらいの、小さな事柄かもしれないけど」
このように内側に問いかけて、静かに答えを待つのである。
- 得てして、こうした試みに対しては、「内なる批評家」が大反撃をはじめる。
批評家曰く、
「お前はそうやって結局どうでもいいことばかりををやって、肝心なことを延々と先延ばししようとしているだけだろう?」
などと。
しかし、そうした「批評家的な声」に対しては、更に、「内なる調停者」(!)に登場いただき、
「・・・・ご説ごもっともでございます。
でも、どうでしょう?
そうやってあいつ(自分自身のことなのだが)を糾弾するのは、あいつが今度そうやって別のことを先に実際にやってみた後でも、相変わらず堂々巡りして、新たなことには取り掛からない時に「それ見たことか!!」と改めて糾弾するのでも、遅くはないとは思うのですが? あいつにもう一度チャンスを与えてあげてみては?」
などと調停的な介入をしてもらい、批評家にはしばらく脇に控えていてもらうのがいいのではないかと思う。
****
さて、上に例としてかかげた、「手紙が書けなかった人」は、それから2日後、突如、すらすらと手紙を最後まで書き上げられてしまって、内容にもフェルトセンスがあっさりOKを出してくることに、自分でもびっくりすることとなる。
その人は、フォーカシングに慣れていたので、自分がその2日の間に、すでにどのような小さなアクション・ステップを見出し、実行したのかすら忘れていた(^^;)
そこで、その2日間のことを丁寧に思い出してみた。
「この2日の間に、私は何か、それまで自分に許してはいなかった、新しい小さな行動のステップを、手紙を書くことと一見関係なさそうな、意外な場面で、『何か』やったのではないか?」
・・・・と。
その結果思い当たった、唯一思い出せた、その2日間の新たな行動内容。
二日前の晩、手紙がうまく書けないまま「自分はこの後何をしたいのか?」という問いかけへのフェルトセンスからの返事は、「ともかく一度家を出て夜風にあたりたい。コンビニに追加の買い物に行くのはどうだ?」ということ。
コンビニにたどり着き、再び「今自分は何を買いたいのか?」問いかける。それに対して、フェルトセンスが推して来たのは、意外な品物を買うことへの非常な積極的支持のサインだった。
こうして、今年の夏になってからは決して買わなかった、あすぎアイスバー1箱6本セットを買うことを自分に許すこととなった・・・・
「・・・・どうも、それが、2日後に手紙をすんなり書けたか書けなかったかの違いをもたらした行動ステップだったとしか思い返しようがない」
・・・・と、その人は言うのである。
振り返ってみると、結果的に、あすきバーを2日かけて6本とも食べ終わった翌朝に、その人はなぜか自然と手紙を書き出せる心境になっていたことになることに気がついたという。
この現象について、その人は以下のように自己分析した:
「自分に甘くあってはならない、みたいな決心が今年になってから強くて。別にダイエットのためとかだけではなくて、自分に対する戒めであるかのようにして、おやつやスナック菓子の類をできるだけ買わない決心をしていたんですよ。アイスクリームを買ってもいいし食べてもいいけど、一度に一個、どうしても食べたい時に買うみたいにしていたんです。
でも、それは、自分をむしろ狭い世界に押し込め、自分でできる範囲に活動範囲を留めて、ひたすら我慢し、耐えさせる方向にばかり向かわせるエネルギーになって、人に心を開いて接してみるみたいな、開かれた外側への態度を持ちたいという自分の中の部分のエネルギーを徐々に開放していくことを自分に許すこととは矛盾すらし始めていたのかもしれないですね。
だから、あずきバー6本まとめ買いを1年ぶりに自分に許してみた時、私の心が、自分の気持ちに素直に文を書いてみるのを自分に許せるきっかけとしてのスモール・ステップになったのかもしれません」
フォーカシングを学ぶ皆さんが、アクション・ステップの小さな一歩というものを、自由かつ柔軟に発想してみるためのヒントになれば幸いである。
*****
あるひとつの行動をなす上で、実はその前に幾つもの小さな、そのこととは全然無関係にも見える行動を、幾つも重ねていく方が、気持ち的にも楽なだけではなくて、性急にひとつの行動だけにつき進んだ場合には避けがたかった様々な副作用・・・準備不足を力技で乗り切ってもその後が続かなくなるとか、回避可能だったはずの周囲の人との不要な摩擦の火種になるなど・・・を減じ、当初の行動が順調に運ぶだけの諸状況を、多角的に「外堀から埋める」形で準備することになることは少なくないと思う。
中井久夫先生のよくお使いになる登山についての比喩をお借りすると、「最短ルートで頂上に向けて登攀しよう」とする「超限的努力」をするアプローチは、自他共に甚大な弊害と副作用を起こすことが多い。
ベースキャンプを幾つものステップに渡って作って行き、少しずつ高度を上げるようなアプローチ、あるいは、急斜面を這い登りたい誘惑を退け、どれ だけ遠回りして緩い安全な斜面を探して、時間をかけて、折々休息を挟みながらでも、ゆっくりと登ろうとしていた人間のほうが、途中で挫折もしないで、その人なりの山頂・・・・最初は山脈の尾根の一番手前の小さなピークの安全な山小屋に過ぎなくても・・・に、その日の日没までにたどりつけるのかもしれない。
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