「乱造される心の病」におけるレーン氏の論の進め方の一例
前回の補足として、クリストファー・レーン著、「乱造される心の病」の中で、フロイト自身の「精神分析入門」の引用を基にして、レーン氏がどういう論の展開をしたかの部分を具体的にご紹介したい。
以下で出てくる、フロイトからの引用箇所は、新潮文庫版の日本語訳から引き写したものであることが注で明記されている。
レーン氏が実際にフロイトの直接引用をはじめる少し前の箇所から引用をはじめたい(pp.213-4 傍線は原文の傍点)。
========以下引用===========
これまで述べてきた、社会恐怖に対する神経精神医学的、認知行動的、精神力動論的アプローチの違いを考えると、晩年のフロイトが、自ら進んで生物医学を強く信頼するようになったのは驚きかもしれない。彼は「将来は、特定の化学物質を使って、精神に関与するすべての器官にエネルギー量やその備給に直接働きかけられるようになるだろう」と認めている。
この言葉は、不安を引き起こす心理学的要素を優先させても、不安の生物学的、更には社会的な実証の重要性が低くなるわけではないことを明快にするのに役立つ。単に不安の要素の順序が入れ替わっただけなのである。人前で話をするときに感じるような心臓が激しく鼓動する不安と、人に生来備わっている「闘争-逃走反応」は、いずれの場合にもアドレナリンが体内を駆け巡るのには違いはないが、心理学的には異なる。したがって、両者を混同してはならない。混同してしまうと、演説的不安をあまりにも大袈裟に表現し、不安は外的な脅威や危険からも生じることがあるという事実を見落としてしまう。精神分析の見地からは、このような脅威(及び、内なる内的な要因)の認識は異常ではなく、精神分析学の真の目的となる。
========引用終わり===========
・・・・・あの、レーンさん、なぜ「この部分」でフロイトを「こういう形で」引用したのですか?????
私には、「フロイトが未来の薬物療法の可能性にある意味で期待をかけていた」こと、安全な新薬が開発されればフロイトだって喜んで活用したろうことをむしろ示唆することで知る人ぞ知る箇所(フロイトの一時期の「コカイン」礼賛のことをレーン氏はどう考えているのだろう??? 知らないのか????)を引き合いに出しながら、同時にそれを無視するという、わけのわかんない、ほとんど苦し紛れと言われても仕方がないことをレーン氏が書いている気がしてならない。
・・・・・・実は、こうした「論理的でない」部分が山のようにある本なのです。
以前に書いたことを改めて申し上げますが、私も、個々の製薬会社のプロモーション活動への膨大な投資に疑問があるという点については、何ら異論は差し挟むつもりはない。
問題は、このレーンという著者に、「ほんとうの学問的誠意」がないことだ。
膨大な情報やインタビューを駆使しているかに見えつつ(個々の事実は事実として正しかったとしても)、実は、「ある一定の論調」にひたすら誘導する、週刊誌やテレビの質のよくないルポルタージュやドキュメンタリーのようなのを延々と読まされる羽目になる本です。
この本にいろんな栄誉を与えたアメリカのマスコミのレヴェルって、結局その程度なのねといいたくなる(^^;)
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