『サマーウォーズ』 レビュー (再掲)
■今回は「多少」ネタバレありなので、まだ観ていない人は読まない方がいいかも・・・・■
この作品は、「オズ」というネット上の仮想世界と、長野の上田という地方都市の、古くからの親戚集団(実際には上田にこの時集まっていない人も含む。・・・そうそう、主人公、健二の学友の敬君忘れてた)というリアルワールドという、2つの舞台を果てしなく往復し続ける仕掛けになっている。
ところが、それにもかかわらず、そこに登場する、固有名を与えられた人物は、ほぼ全員、仮想世界「オズ」上でのIDとアバターを持ちつつも、同時に、生活の中で顔を付き合わせる「既知の人物」であるという構造を持っている。
(「ラブ・マシーン」の開発者ですら「あの人」ですから、彼の人格からもはや解離して一人歩きしている、彼の「影」のようなものである)
つまり、リアルワールドでの生身の人間としての直接コミュニケーションと、仮想空間上でのコミュニケーションが全く等価で並列的に同時進行してしまう。
そして、リアルワールドでの古き良き日本の家族共同体の団結が、結局世界中のネット・ピープルをも動かし、全世界的な絆が達成される・・・・という、とんでもない筋書きになってしまっているのだ。
ハッキングをモチーフにしているにもかかわらず、この映画で描かれているのは、ネット上の人間関係と、現実のフェイス・トゥー・フェイスの人間関係の、実にしなやかな連続性である。
ある意味では、ネット上のコミュニケーションの方がリアルのコミュニケーションよりも浅くて表面的で演技的な別の自分であるという既成概念をぶち壊そうとしているともいえる。
しかしそれは同時に、結局はリアルワールドでも「深い絆」で結ばれた人間同士であってこそ、はじめてネット上でも「深い絆」を持ち、リアルワールドをも揺り動かす力を発揮する、ネットの使い方すらできるのではないか?という、ネット人間の肥大したナルシシズムや全能感を粉々にしかねない「大逆説」すら読み取れてしまう作品になっている気がする。
ネットとは、どこまで行っても、昔ながらの郵便や黒電話(^^)が単に進化したメディアであるに過ぎず、その向こうには「生身の人間」がいるのだ。生身の人間の心が動かなければ、信頼の絆がなければ、全くもって無力な、ただの道具である。
そのことを、模範として示してくれたのが、栄おばあちゃんの、あのうず高く詰まれた手紙のやり取りの束であり、黒電話での全国指令なのだと思う。
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