欝(気分障害)の時代の次には、発達障害の時代が来る。(再掲)
【注】以下、2010年に書いた記事です。ここで書いたことは、すでに「現実そのまま」になってしまっていますが。
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やっと、常用漢字表に、「欝」の文字が入ったみたいですね。時代の趨勢を感じます。
ただ、最近、私が新たな環境に適応する中でつくづく思うようになったことを書きます。
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一時期、「アダルトチルドレン」という言葉がやたらと濫用され、どんどん拡大解釈され、いつしか「怪しげな」流行に過ぎなかったかのように使い捨てられた時代がありました。
同じようなことは、「PTSD(心的外傷後ストレス症候群)」についても、確かにPTSDという臨床病態は歴然と存在しますが、一般世間的には、「トラウマ(心的外傷)」という言葉の深刻度が正確に理解されたがどうか?
安易に使われ過ぎたり、逆に、ほんとうに深刻な場合のことを区別して理解することも正確に流通しない・・・という、混乱状態が実は延々と続いているような気もしてなりません。
そして、今は「新型うつ病」とか、そういう言葉も駆使されながらの、いわば「汎-気分障害」の時代のようにも感じています。
このへん、ほんとうは難しい。
欝って、「症状像」なのか? 「疾病概念」そのものなのか?
私は医師ではないので、あくまでも現状での個人的感想として書きますけど、そろそろ「欝」(広義の気分障害を含む)という概念と適用対象の広がりが限界に達する時期が来たんじゃないかという予感がし始めました。
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私の想像するに、今から数年後には、精神医学や臨床心理の世界は、「うつ」「気分障害」に代わって、「発達障害」という概念がものすごく幅広く使われる時代になっていると思います。
つまり、「汎-発達障害」の時代が来るということです。
私は発達障害の臨床的専門家としてのキャリアはありません。スクールカウンセラーとしての経験もなかったので、特別支援教育(学級)の現場を垣間見る機会もありませんでした。
以前にも書きましたが、私が大学で学生相談をしていた時代は、まだ、高機能発達障害の学生さんへの対応というのは「黎明期」のテーマであり、私も多少関わらせていただいた経験はあります。
そういう私が書くことですから、以下の内容、多少の(かなりの?)見当はずれがあってもどうかお許し下さい。
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ここからは、話を明快にするために、発達障害の中のひとつの診断分類である学習障害(LD)についてだけ書きます。
しかも、学習障害の「純粋型」とも言える人たちをモデルとして思考実験してみます。
以前もこのことは当ブログのこちらでお書きしましたが、他の点では全く普通のコミュニケーション能力や知的水準があるかに「一見」お見えの人が、学業というより、例えば、もっと身近で日常的な筈の計算能力という点だけ取り出すと、びっくりするほどお困りのまま、影ではたいへんな苦労を重ねて成人になられているケースは、確かに見られます。
「今から15分後」というのが何時何分か暗算では全然わからない。だから、絶対に大きめのアナログ時計を持ち歩いて、1分、2分と手で指さしながら勘定されるそうなんですね。
「学習障害」の当事者として、その極端な知的能力のアンバランスの現実について、テレビ出演・著作・講演活動もなさっている、笹森理恵さんのおっしゃっていたことですから、ここでここまでお明かしても何も問題ないかと思います。
(もっとも笹森さんご自身は、ADHD・LD・アスペルガーなど、まさに複合的な高機能「自閉症スペクトラム」、更にもろもろを一身に背負われ、いい専門家との出会いの中で、やっとのことで今のご生活が可能になり、今度はご自身が援助職の側に立とうと努力を重ねておられる方です。ウェブサイトはこちらです)。
そういう意味では、「勉強における努力と根性や、家庭や地域社会でのしつけや見習い、学校教育一般の問題」をまるっきり超えた次元での、生得的な「学習障害」っていうのは、歴然とこの世に存在する。
より浅い次元に翻訳すると、誰にだって能力の「偏り」はあり、得意科目と不得意科目の違いは、単なる努力や勉強の仕方の次元を超えて存在する。
もちろん、これからの時代、今度は、ではどの水準からかを「学習障害」とみるのかが、本当に「悩ましい」問題になると思います。
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そこで思うんですけど、
広い意味での高機能発達障害の皆様の中で「気分障害的」症状に苦しまれている方々はたくさんおられるようです。
その一方、「気分障害」の皆様の中で、私なりの命名ですが「軽度高機能学習障害」みたいな生育歴をお持ちの方も少なくないようです。
それを「しつけ不足」や「勉強嫌い」、「努力不足」の還元しようとすると、何か、説明仕切れないsomethingが残る。
「その当時の」養護学級・学校システムでは「受け皿」自体がなかった。ただし、その人の子供時代に「現在の」都市部並みの特別支援学級制度が存在したら、運命はひょっとすると異なっていたかもしれない・・・・・という、「ある世代より上」の人たち。
そういう、学力やその他の知的能力のかなりのデカラージュ(私が若い頃に学んだ言葉で、「さまざまな次元での発達因子相互間に相当なギャップやズレがひとりの間の中にあること。・・・・今現在、こういう場合に使う言葉かどうかは、私は発達心理学者ではないのでわかりません、誤用ならお許しを)を、それこそ「努力と根性」で乗り越えて生きて行こうとするうちに、限界に達して、その結果、うつ(気分障害)状態にはまる・・・みたいな人たちがいそうな気がしてきたのです。
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私は、良きにつけ、悪しきにつけ、空想します。
数年後に、何かというと、精神疾患が、今度は「発達障害の潜在」の可能性から語られるのが「過剰になり」すらしまいかと。
もちろん、そうした中で、現在のうつ病(気分障害)の現場臨床のお医者様の中の良心的な先生方と同じように、「うつ傾向もある発達障害」と「発達障害も潜在しているかもしれないけと、基本にあるのはあくまで内因性の気分障害の波」という、デリケートな鑑別と処方の使い分けがおできになるお医者様が今後もずっとおられるであろうことを。
DSMも、バージョンがVI(6)あたりまで進んだら、ほんとうに別世界かもしれないなあ・・・とか。
DSMだけで、やはりすべてをカバーするのは、いろいろ限界があるのかなあ・・・とか。
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このことを考えさせていただけるそもそものきっかけになったのは、次の本でした。
スクールカウンセラーとしての経験もなく、特別支援教育(学級)と関与する経験もないままキャリアを積み上げた私に取って、いろいろな意味でインパクト満載の本でした。
新書ですが、発達障害最前線の現場児童精神科医の書いた、エッセンスが隙間ないくらいにビッチリと詰まった、非常に奥が深い本ではないか?というのが私の感想です。
ありがちな「ゲーム脳」論は微塵もなし。生まれ持った素質に対して「特別支援教育の専門家なら」何ができるか、薬物療法を含めた医療に何ができるか、ご家族のサポートとして何ができるか、進路や就職問題まで、理想と現実の狭間のギリギリの世界(!)を書いておられるように思えています。
私の世代の専門教育しか受けていない人間が、実際の今の特別支援学校教育の現場を臨床的に知らないまま、安易に「発達心理」と関連する教壇に立つ資格はもはや「ない」のではないか・・・・と「絶句」させられるくらいのものがありました。
何か、私がこれまで学会で発達障害についての研修会とかで学んだこととは「異次元」の世界に一気に吸い込まれる迫力を感じました。
本書のAmazomレビュー、例外的に星二つにとどめた「ロック」さんまで含めて、みっちりみんな目に通す価値があるように思います。
星二つの方も、本書を否定しているのでは決してない。むしろ本書を基本的に認めた上で「更に先まで進むための、ほんとうに最低限の入門書なんだ」という点を強調されているだけなのですね。
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【第2版 10/06/11】
なお、気分障害と発達障害のある種の輻輳性(?)みたいなものについては、以前からお読みしていたkyupin先生のサイトの一連の記事にもインスパイアされています。
最近のkyupin先生の記事、
●広汎性発達障害と心因反応(kyupinの日記 気が向けば更新 精神科医のブログ)
もご参照下さい。
この記事で取り上げられているのは、あくまでも旧来の「引きこもり」のある部分は間違いなく広汎性発達障害だったろう・・・という御趣旨であり、気分障害との関連付けではないのですが。
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