面接場面でのメタ・コミュニケーション自体を話題にする -Mick Cooper博士による、心理療法における多面的(pluralistic)アプローチ- (3) (再掲)
ミック・クーパー(Mick Cooper)博士による特別講演、「多面的心理療法における理論・研究・実践」を拝聴した報告記の、前回に続く第3回です(^^)
すでに連載第1回で述べたように、クーパー博士は、本来非指示的(non-directive)で、面接場面での、クライエントさんの主体性と自己決定権を最大限尊重するはずのクライエント中心療法的アプローチ(パーソン・センタード・アプローチ[PCA])そのものが、もしクライエントさんに、その治療者に対して唯一期待し得る心理療法の技法となった場合に、それが、メタな次元では、クライエントさんが、クライエント中心療法に従うように強制されるという、セラピスト側からの「指示性(directive)」のある関係性に転倒してしまうという、究極の逆説を提起した。
カウンセリングにおいて、クライエントさんに何の成果もあがっていないように見える場合にも、面接だけはずるずると繰り返される場合があることはよく知られている。
クーパー氏は、こうしたケースのことを「クライエントが面接を引き伸ばす(defer)傾向」と名づけ、「PCAを押し付けられた」場合、すなわち、クライエントにPCAアプローチが適していなかったにも関わらず、治療者側からのPCA的な介入を受け入れて(私なりに言い換えると、受け身に「甘受して」「甘んじて」)いたに過ぎないことの示唆ではないかと述べた。
心理セラピーにおける治療者とクライエントさんとの相互作用を見つめるに当たって、「メタ・コミュニケーション」の次元を重視することが大事であるということになる。
具体的には、セラビー初期の段階で、
- 「セラピーに何を望んでいますか?」
- 「あなたは、私たち(セラピスト)が、どのようなことができるかもしれない(may)と感じていますか?」
- 「これまでの経験の中で(そこにはそれまでのセラピー経験も含まれる)、あなたにとって、役に立ってきたことや、役立たなかったことは何ですか?」
などというテーマで、じっくりと話を聞いておくことが重要であるとする。
また、面接の各回のはじめにも、
- 「今回のセッションで何を得たいですか?」
- 「今日は何を話し合ったら役立ちそうですか?」
などと率直に問いかけておくことも大事だとクーパー氏は述べた。
パワーポイント上には書かれてはいないが、
「このような話し合いが十分なされないまま、漫然と面接が繰り返されることは、治療同盟上の傷を深めるだけだ」
・・・・クーパー氏はそこまで明言した。
*****
クーパー氏らの教育・研修活動によって、すでに現在、最初から多元的アプローチに熟達すべく臨床専門教育を受けたカウンセラーが、育ち始めているという。
そうした臨床実践家は、PCAに限らず、精神分析でも、認知行動療法でも、行動療法でも、様々な臨床実践の多種多様性の中から、その時の個々のクライエントさんに適した方法を提案できる能力を備えていくことが目指されている。
つまり、クライエントさんが、セラピーから望むものを得ることをサポートするような実践である。
(これが、クライエントさんが望むがままのものを差し出せる、無制限なまでの「何でも屋」になれ!ということとは異なることは、すでに第2回で述べた)
そこに必要になってくるのは、「より拡張され、高められた次元で(enhanced)、メタコミュニケーションをしていく」ということだと、クーパー氏は論じる。
そうした面接の実際では、そうした、治療者-クライエント間の「メタ・コミュニケーション」次元での話題が頻繁に出てくることになるはずだという。
具体的に言うと、セラピーでクライエントさんが望むことやしたいことを、治療者がクライエントさんに確かめたり、それについての対話を進める場面が、かなりの頻度で出てくるはずということである。
例えば、
「確かに、私たちは、この時間帯に、この話題について話し合おうと決めていたわけです。私たちの間で、その話題の意味について理解を深めるような分かち合い方ができるかどうか[が肝心なん]ですよね。
・・・・・ちょっと思ったんですけど、その話題について、私の方から、いくつかの具体的な質問をして差し上げた方が、あなたの役に立ちそうですか? それとも、[そうした私からの質問なんて邪魔で、]あなたにとって話す必要があることを話してもらうことに時間を使った方がよろしいでしょうか」
などといった、セラピスト側からの問いかけを挟むことなどがそれである。
*****
今回で最終回にしたかったのですが、この部分、長さの割にはへヴィーとも感じましたので、残りの部分を更に分割して、次回に続く・・・・とさせていただきます。
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