続・『信』なき理解 -援助職の人自身の人間関係の光と影-(再掲)
大好評をいただきました「『信』なき理解」ですが、
今度はこの問題を、
クライエントさんとカウンセラーの関係の問題から、
カウンセラー同士、
あるいは、看護や福祉、
地域精神保健等を含む、
広い意味での「援助職の人間どうし」や、
「私的な」人間関係
に拡張してみようかと思います。
***** 流派や個人差によってある程度違いがあるかとは思いますが、一般に援助職に携わる人間は、
「相手の話をまずは受容的に傾聴し、
相手を不要に傷つけないように応答する」
のが「習い症」になっています。
これを、クライエントさんとの関係を離れたら、即座にスイッチを切り替えて、相手に愚痴も言えば怒りもぶつける「普通の」人間関係に切り返られるものかとうか?
援助職に就く人というのは、
もともと他人の痛みに
我がことのように「同情」し易く、
普段の日常の人間関係でも、
周囲の人の相談相手としても、
「聴き役」になったり、
あるいは少なくとも、
家族や集団の中で、
相手に不平不満をいわないで
大人しく「いい子」として
従順に、
あるいは、
「甲斐々々(かいがい)しく」
ふるまったり、
自分を殺して「いじめられ役」
になっていた人
.......が、(すべてではないですけど)かなりのパーセンテージを占めていることは確かでしょう。
自分で自分の人生に悩んだり、 自分自身が、「救いがない(helplessness)」人生経験をした教訓を生かして、自分が、人を援助する仕事に就こうと思うようになった人たちが少なくないはずです。
*****
こういう人が、
相手のことを受容し、
傷つけない応対の仕方を、
更に「職業的訓練」として学んでしまうと
私生活での対人関係はどうなるか?
****
.......もう、目に見えていますよね。
場合によっては、前回書いた、クライエントさんとカウンセラーとの関係より悲惨な状況が待ち構えていることは。
何しろ、問題は、もはや、
1時間なら1時間の「『枠』のある面接構造」、
一日8時間の「勤務時間」
の外側での私生活の領域なんだから、
24時間営業、逃げ場がないのです。
*****
そして、援助者同士の人間関係というのも、職場の中であるか否かに関係なく、一つ間違うと、悲惨な側面を抱え込みます。
「この人はじっくり話を聞いてくれる」
からといって、
それが「相手の本心」からかどうか、
まるで信頼できない。
だって、
その話し相手は
「カウンセラー」
なんだもの!!
裏でどんな陰口を言われているか、
わかったものじゃない。
それどころか、
自分のいない席では、同僚たちは、
「あの人は『病気』だ」
という噂すら立っているのに、
普段は全くにこやかに、
「職業的仮面」をかぶって、
「私にも」、みんなぐるになって
「何ともないかのような」、
「しらばっくれた」
顔をしているのではないか????
.........こういうふうにカウンセラーひとりひとりが「お互いに」職場で同僚に「疑心暗鬼」の中で「腹の探り合い」ばかりしていたとしても、
それはその人個人の「被害妄想」ではなく、
そういう状況におかれたら、
誰でも陥る可能性がある
「集団心理的」な
異常な対人関係の場
であるからだということは、
一般の皆様にも、お察しいただけるかと思います。
******
この問題について、私が知る限り、唯一真正面から取り扱った名著をご紹介します。
グッゲンビュール=クレイグ著「心理療法の光と影 -援助的専門家の「力」-」
この方は、ユング派の重鎮のひとりですから、ユング派の用語が多く使われていますが、書かれている内容の「普遍性」に関しては、最低限のユング派用語を理解できる援助的専門家の方は、胸をえぐられる思いをなさるかもしれません。
スイスのユング研究所の研修生の間では「青本」と呼ばれる、必読の教科書の一つとのことです。
ここで展開される、
「傷ついた癒し手」
という元型をキーワードとする論述は、
援助職に就く者の内面の暗部(「影」)を
情け容赦なく抉り出すと同時に、
そうした「影」との戦い、克服の過程で
はじめて得られる癒しについて、
すべての「援助職」の人に
生きる勇気と希望の「光」となり、
「標(しるべ)の星」ともなる、
感動的な名著だと思います。
永らく再販されていなかったこの本の復活を私は心から喜んでいます。
「私の敬愛する本ベスト5」のひとつ。
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