さて、いよいよ冨髙氏の著作を実際にお読みした上での書評を書かせていただきます(^^)
ただ、今回は、冨高先生に対してはたいへん僭越な趣向かもしれませんが、私がこの前、読売に掲載された「春日氏の本著への書評」への感想記事を、冨高氏のご本そのものは「全くめくらないままで」書かせていただいた段階で、冨髙先生の著作に私が「期待する」ポイントとして列挙した内容の大半を丸ごと引用して、どこまでその期待が適(かな)えられたかということを示していくスタイルを取ることをお許しください。
携帯でこのサイトのお読みの方にはご迷惑で、更に言えば、Windowsパソコンだと、あまり見かけ上美しく表示されないことを承知で、この前の感想から引用部分は斜字体とさせていただくことをお許しください。
冨高辰一郎/なぜうつ病の人が増えたのか
(楽天ブックス)
●参考資料:読売新聞サイトの春日氏の書評の全文
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「うつ病が急増しているといわれる。(中略)実際、1999年から2006年までの6年間の間に、うつ病患者は2倍以上に増えている。99年から患者数が急増しているのである。ではその年に何があったのか」
このことが、冨高氏自身の発想の原点にあったことは、Amasonのサイトですでに確認済みである。
・・・・・・まさにそういう本です。
春日氏は、(中略)
「しかしそれでノイローゼ患者が増えたというのならばともかく、うつ病患者が2倍にも膨れ上がるものなのか」
この言葉が冨高氏の原著にある言葉なのか、春日氏の表現なのか不明だが。
・・・・・この「ノイローゼ」という表現は冨高氏の本には見当たりません。
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「99年は、本邦でSSRIと呼ばれる新型の抗うつ剤が導入された年である。ニュータイプの抗うつ薬の売れ行きと、うつ病患者の急増は相関している。だが新薬登場でうつ病患者が減ったというのならばともかく、逆に増えたとはどういうことなのか」
「ここで製薬会社による啓発活動(一般市民および医師への)がクローズアップされる」
・・・・・このことは、慎重な筆運びで、丁寧に言葉を選びながらですが、詳細に統計データをつけて、冨高氏自身が問題提起しおられる。
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冨高氏が、日本以外の、アメリカやヨーロッパ諸国でも、SSRIが認可された時を境にうつ病患者が急増した統計データも示してくれているかどうかに関心がある。
・・・・・ものの見事なまでに、数カ国以上のデータを集めておられます。
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もとより、「1995年ごろには欧米でSSRIへの評価が下がりはじめたので、日本が特にプロモーションのターゲットにされた・・・・というあたりの論が冨高氏の著作の方で展開されている可能性あり!とシミュレーションしますが。
・・・・・本書の中でその可能性は十分示唆されています。
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「ここで製薬会社による啓発活動(一般市民および医師への)がクローズアップされる」
・・・・・・お医者さんならではといいますか、製薬会社提供の学会でのランチョン・セミナーの様子や、病院への製薬会社の営業スタッフの訪問激増ぶりが生々しく報告されています。
そして、私が以前一度警戒すべきサイトとして釘を刺したことがある筈の「utu-net」が、某製薬会社・・・・・冨高氏は明言されてはいないが、サイトの内容からして、不安障害(パニック障害)にも強迫性障害にも鬱にも適用できる薬っていったらパキシルかルボックス=デプロメールぐらいのものでしょ?・・・・・に支援された、典型的な「市民向けプロモーションサイト」であることを明言しておられます(p.104)。
そうした製薬会社の支援を受けていることをサイト上ではっきりと「公示」した上でPR活動をすることは全然かまわないと思うのですが。
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特に、パキシル(パキセロチン)の発売元であるグラクソ・スミスクライン社の広報活動と不利な情報隠蔽体質に関しては悪評ぷんぷんたるものがあることは、検索すればいくらでも情報源があるが、私は敢えてここで、加藤忠史氏による「躁極性障害―躁うつ病への対処と治療 (ちくま新書)」
ですでに書かれていることから引用したい。
以下、紫色の部分は「加藤氏の」この著作からの引用です:
「それどころか、これらの新しい抗うつ薬が、うつ病にほんとうに効くのかどうかということまで、最近議論になってきておりまして、ちょっとその話題を紹介したいと思います。
実は、抗うつ薬をうつ病の方に処方して、効いたかどうかを調べた臨床試験の結果は、論文になっているものといないものがあるのですね。
そこで、アメリカにFDA(食品医薬品局)という薬の認可をなどを行っている部署があるのですが、そこの論文開示請求を出して、論文になっていないパキセロチン(パキシル)の臨床試験を出してもらった、という研究があります。
そこで再解析したところ、論文にされていない臨床試験は、みな効果がない結果に終わっていました。論文になっているのは、効果があるものだけだったので
す。それで、これはバイアスがかかっているのではないかという研究結果が論文として報告されました」(pp.177-8)
加藤氏は更に続けて、その後の論文で、パキシルは中症から重度の患者ではプラセボ(偽薬)よりもやはり有効だったけれども、その効果はわずかで、軽症例では効果に差がないというものが公表されていることを示しています。
・・・・・・これらのことは、加藤氏の著作と重複する部分、加藤氏より詳しい部分があります。
もとより、内容そのものは、医師向けの専門雑誌どころか欧米のマスコミでは繰り返し取り上げられてきた内容なので、不幸にして加藤氏の著作よりも「たった数ヶ月」刊行が遅れただけの冨高氏は、加藤氏がここまで書いているとご存知なかった可能性が高いかと思います。
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更に加藤氏は、アメリカの臨床試験の厄介な問題についても言及しています。
「アメリカではこういう臨床試験に参加した人に報酬を払うのです。報酬が出るとなると、お金だけがほしいといういう人もいまして、こういう臨床試験をいくつも掛け持ちする人が出てくるわけです。
たくさんの臨床試験に偽名で参加して、報酬だけもらいながら薬は捨ててしまう。そして医師には、うつらしい症状を話しながら治ったふりをする。そういう人たちがいるのです(中略)。[これでは、]効くべき薬に[統計調査上の]差が出ません。飲んでいないのだから差が出るわけがない」(p.179-80)
・・・・・この問題については冨高氏は言及していません。
むしろ、「二重盲検」という治験スタイルそのものに「倫理的な」問題があることが欧米では問題視されつつあることを指摘しています。
その一方では、まさに「二重盲研」に基づくデータも結構活用しておられますが、これはやむを得ないでしょう。倫理的問題は別として、このやり方こそがエビデンスド・ベースドな最も厳密な研究法であることは確かでしょうから。
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さて、この「製薬会社のプロモーション」の問題を考える際に、ちょっと視点を変えますと、実は同時に考えねばならない重大なテーマがあるはずです。
それは、「薬価」の問題です。(中略)
もし私がこの2冊の本で言及されていると嬉しいと思っているのは、そもそもなぜSSRI(特にパキシル!)の薬価があそこまで高いのかという問題それ自体です。
・・・・・パキシルの薬価が格別に高いことはお示しですが、残念ながら「なぜなのか」という「素朴な疑問」そのものについてはダイレクトに解き明かしていただけませんでした。
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SSRIは、本国でも価格が基本的に高い薬なのですが、単順に経済的に考えて、もし「薬価」を法外に高くせざるを得ないやむをえない事情があるのであれば、特に保険制度を民間に依存しているアメリカでは、「プロモーション活動」に巨額の投資をせざるを得なくなるだろうということになります。
それとも、最初からそのプロモーション費用を「回収する」見込みまで立てて、「薬価」が高くなるようにいろいろ偽装したということまでありでしょうか?
このあたりについては、実に興味深いことを冨高氏は示唆しておられました。
「米国では95年から2000年までの間に、製薬会社の営業部門で働く社員の数は60%増加した。一方、研究部門で働く職員は2%減少したという。最近の調査によると、米国の制約業界全体では営業活動に570億ドル費やす一方で、新薬の研究開発には315億ドルしか使っていないという」(pp.78-9)
こうした現象は、「製薬業界の化粧品業界化」と呼ばれているそうです。
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次に、特に冨髙さんの本で、「鬱症状」の病態によって、使用する薬を変える必要性についてどこまで踏み込んだことをお書きになっているのかについても関心があります。
Amazonの書評欄を見ると、本書の中で、「再発予防のためのリハビリの重要性」だとか、「(SSRI以外を含めた)多種多様な抗鬱剤の効果の程がわかる」とのことなので、この点はあまり心配しなくてよさそうである。
ひょっとしたら、うつ病と誤診されやすい双極性障害II型において、リーマスや抗てんかん薬、場合によっては非定型薬、更には睡眠誘導剤が役に立つことについても言及されているだろう。
・・・・・ SSRIと他の抗うつ薬の副作用の出方の違いについては、冨高氏は慎重な筆運びで、良心的に、時には両論併記でお書きになっている。
私にとって、双極性障害「II型」についての解説が、もっともな内容が書いてあるけれども、もの足りなかったことについては、直前の記事(第2版)で先行して書かせていただいたことを、リンクをたどって参照いただければと思う。双極性障害II型(双極スペクトラム障害)の人は、この冨高氏の本を読んでも肩透かしを食らうだけになります。
古典的うつ病と、双極性障害「I型」(いわゆる「躁うつ病」)以外の気分障害についての取り扱いという点では、ちょっと弱い本だと思います。ほんとうにそれはプロモーションの弊害だけで説明がつくのか、私には大いに疑問符がつくのです。
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そして、薬物療法だけではなくて、医者の小精神療法やカウンセラーによるカウンセリングが連動していること、更には家族や雇用者側の対応についてまで踏み込んでくれていることを期待したい。
・・・・・総体的にはかなり突っ込んで描かれていると思います。
もっとも、認知行動療法についての紹介は、この種の、認知行動療法のマニュアルやワークブックではない、鬱についての一般向け啓発本の中では「平均水準」でしょう(これは、私にとっては、少し物足りなくて平凡の域ということ)。認知行動療法以外のカウンセリングに特に偏見をお持ちの方でもないようです。
認知行動療法について知りたい人は、何よりもまず伊藤絵美先生の「認知認知知療法・認知行動療法カウンセリング初級ワークショップ―CBTカウンセリング」を読まないと、認知行動療法についての基本的理解が間違ってしまうことは、すでにこの記事でご紹介したとおりです(一般の人でも楽々読める平易な本です。むしろ、流派に関係なく、達人の域に達したカウンセラーとはここまでクライエントさん思いの良心的な存在なのだと感じていただけるでしょう)。
これを機会に申し添えますと、伊藤先生は、この本の中で、コラム表だけを渡して、さあやってみてくださいだけで、やって来れないと『あなたには認知行動療法は向きません』で済ませるようなあり方を、認知行動療法への誤解を広めるものとして厳しく退けています(pp.107-8)。
次に、雇用者側の対応についてですが、冨高氏は、製薬会社の側のあり方と、企業内での、雇用者に対するうつ病についてのメンタルヘルス的な広報・支援活動の問題を完全に切り離して論じています。
「だからと言って広報支援活動そのものを狭めるべきということにはならない。いったん広がった入口というより、出口(実際に鬱に罹患した人への企業の対応のあり方)をどうしていくかである」と。
そして、何より予防的に効果があるのは、残業ルールを厳密に守ることであると、具体的に断言しています。
更に、安易にEAP(メンタルヘルス関連の活動の外注)に依存することの弊害を説き、京セラ本社で、わずか1名の専属産業医師、山田達治氏と看護師1名で繰り広げた、緻密そのものの休職・復職支援活動の結果、2年間で「再休職した人ゼロ」という驚異的な実績を残したことを紹介している(pp.222-3)。
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「これはメタボリック・シンドロームと同じ構造である。以前だったらただの『小太り』が、今で病院受診や保険診療の対象となる。早期治療といった考え方もあろうが、いたずらに多数の『病人』が作り出されたとも言えるだろう」
この部分は、冨高氏ではなくて、書評の春日氏の言葉であろう。
(中略) 例えば、「ちょっとおなかが出ている人」とするだけでもニュアンスは変わる。
・・・・・メタボ啓蒙活動との比較論は冨高氏の著書に存在する。しかし、もちろん書評の春日氏のように、ただの『小太り』などという不謹慎に言葉は出て来ない。
「こういった基準を満たす、少しお腹の出た、収縮期血圧が130程度の軽度肥満の中年男性は、昔からいくらでもいた。しかしそれだけの理由で、そのような人々が病院を受診することはなかった」(p.152)
春日氏と冨高氏の人柄の違いを感じさせられてしまう・・・・(^^;)
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「ただ啓発運動が逆に病気でないものを掘り起こしているといった視点もある。『病気の押し売り』と評され、うつ病以外に小児の躁うつ病、男性型脱毛、性機能障害、ADHD(注意欠陥・多動性障害)、軽い高コレステロール血症などが欧米では批判されているらしい」
(中略)
またもや加藤先生のご著書「双極性障害」に戻らせていただくと、実はすでにこの本で、「小児思春期の躁うつ病」問題について、第2章第4節全体(pp.47-51)を割いています。
特にアメリカでは、一時期、ほんの3,4歳の子供まで双極性障害と診断され、薬物療法の対象になるケースが結構あったようです。
加藤氏は、これに対して、大人の双極性障害に適応が認められている薬を、臨床試験なしで子供たちに使うことができるアメリカの現状を危惧しています。
2歳の時に「いつもそわそわして走り回っている」との理由で診断を受け、検査の結果、3歳になった直後に、ADHDすら飛び越して双極性障害と診
断され、非定型薬、気分安定剤をはじめとする1日10錠もの薬を飲んでいたそうです。そして4歳になって、薬の過剰摂取が原因で亡くなって、両親が第1級
殺人罪として起訴され、両親側は医師の指示に従っただけと主張したという事件があったとのこと。(CBSドキュメントによるとのこと。探せば今でもサイト
上に何かあるかな?)
ADHDへの「精神刺激剤」投与の経験がある人に小児期の双極性障害発症が生じやすいという研究があることも紹介されています。
そして極めつけは、次の事件。ここも加藤氏の著作よりの引用:
「小児双極性障害の診断増加に中心的な役割を果たし、こうした子供に対する抗精神病薬治療を境に先
駆けて提唱していたのは、ハーバード大学のビーダーマン教授でした。最近、小児性双極性障害の権威である同教授とその同僚が、製薬会社から多額の現金を受
け取り、大学に報告していなかったという事実が報道されました(2008年6月8日 ニューヨークタイムズ)」
・・・・・この部分については、加藤氏の本のほうが少し詳しく、手厳しく、具体的なくらいかもしれません。
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おしまいに、この本を書くにあたっての冨高氏が思いを語った、終わりの方の部分から引用したい。
「『SSRI発売後、日本全体でうつ病患者が急増した』と説明されても、気分を害す患者の方が多いのではないかと思う。うつ病で苦しんでいるのに、大局的な一般論を説明されると、不快に感じる人もいると思う。正直に言うと第1章から第3章までの内容に関しては、家族から患者に積極的に伝える必要はないのではないかと思う」(p.240)
・・・・・・しかし、読売新聞と春日氏(と出版元の幻冬社?)が、この本をここまでセンセーショナルに仕立て上げてしまった。
私が言いたいのは、個々の製薬会社の個々の薬に関して、治験のあり方、副作用の問題、プロモーションのあり方が問題にされてしかるべきだけれども、十把ひとからげな医療不信を煽る発言は、患者を不安に陥れるばかりで危険だということです。
・・・・・と、私はこの前の記事で書きましたが、情報的にはネット界では結構知られていても、この種の一般向けの本がどういうわけか日本ではあまり出版されて来なかった中であえて出版に踏み切ったこと(しかも冨高氏のように、非常に冷静でつつしみ深い表現をなさるお医者様がお書きになったこと)に十分な意味はあると思います。
・・・・ですが、正直に言って、あの新聞の書評だけで、「おまえは大した鬱じゃない、働け!」やら、「薬を飲むのはやめなさい!」的な家族争議が日本のどれだけの家庭で発生し、うつの人の心を揺らし、混乱させたか(更に病院でも多くの患者さんとお医者さんとの間で騒動があったことだろうか)容易に想像がつく。
そのような事態は、著者の冨高氏自身は全く望まなかった事態の筈である。
それこそ、「プロモーションの恐ろしさ」ではないか!!
冨高氏も、純粋に薬の効き目としてみた場合については、旧来の抗うつ薬よりSSRIの方が常に安全で副作用が少ないとはいえないことを、慎重に論じているに過ぎないのである。
何しろ、冨高氏自身は、SSRIが自殺率が高いという、よく言われがちなことについては、ご自身の臨床経験からはむしろ懐疑的なくらいである。
*****
私は、この本を、お読みになるとすれば、冷静に細やかに読解し、安易にこの本を振りかざして、「重たくない」とされるうつ病の人を軽視することに繋がらないことを祈ります。
何と冨高氏自身も、本書の中ではっきり次のように書いておられる。
「会社員のうつ病は、統合失調症や重度うつ病より診断が楽ということは決してない」(p.28)
・・・・よって、amazon的に言うと、複雑な思いを込めて★★★とします。






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