何日か経ちましたので、先日の日本臨床心理士会「子育て支援研修会」の第一分科会「発達障害」の部の参加した私がためしに作ってみた、
「自閉症・学習障害を中心とする、発達障害についての理解度テスト」
の解答編です(^^)
******
1.自閉症は、引きこもりとはっきりした境目がない。
×=「引きこもり」とは、あくまでも社会問題や教育の領域で用いられる概念です。そこには、思春期の一過性のもの、「生徒・教師からのいじめ」「アイデンティティ拡散」「鬱病」「統合失調症」「退却神経症」「親と関係の問題」など、様々な原因を複合的に鑑別していく必要があります。しかし、狭義の「自閉症」や「学習障害」「ADHD(注意欠陥障害)」などの「広汎性発達障害」の、いわば二次的症状の場合もあり得ます。これらを鑑別診断できる力は精神科医に備わっている(はず)です。
2.自閉症者には、ある特定の面では知的・能力的に優れていることが多い。
×=その種の例ばかり取りざたされた時代がありました。「サバン症候群」とも呼ばれます。しかし、特に自閉症の場合、すべてのIQにわたって分布しているとみなす方がいいようです。もっとも「学習障害」は、確かに、優秀な知能と、それとあまりに不釣り合いな、一般生活場面におよぶ能力の低さが 見られるケースも少なくないようです。「学習障害」とは、後述するように、単にある特定の教科ができない、などどいう生やさしいものではなく、生活全般に支障を来たすことが多いことについては、今日まだあまりに認識が広まっていません。また、自閉症との鑑別も、その道のプロでないとなかなか難しい。
。
3.発達障害の診断基準は、国会で批准されている。
○=ICD10(「疾病及び関連保健問題の国際統計分類」)そのものが国会で批准されているのですから。DSM-IV-R(「精神障害の診断と統計の手引き」)とICD-10の間には広汎性発達障害について、おおよそは似た基準になっていますが、専門家にとっては軽視できない、若干の違いがあります。
4.リタリンを服用しても、ADHDや学習障害の人に、効き目はあっても副作用が生じない場合も多いことについての理解が欠けたまま、現在のリタリンについての論議が進行していることに注意が払われる必要がある。
○=このことが、どれだけ発達障害の皆さんに不安と動揺を与えたことか!! ハイになることも、幻覚を観ることも皆無、副作用全くなしという患者さんがいっぱいいます。
5.薬物療法により、発達障害の人の生まれながらの視力の弱さが劇的に回復することがある。
○=生まれつき視野狭窄で弱視の重度の「学習障害」の方自身が講演なさいました。医師の処方でリタリンを服用するようになってから、「世界に輪郭があることに驚いた」そうです。
6.学習障害の人に、知覚過敏を伴う人がおり、どんなに質のいい水でも直接飲めないというケースは十分考えられる。
○=自閉症の知覚過敏はさまざまな本でかなり知られるようになりましたが、学習障害の人にも随伴する場合があることは、あまり知られていないでしょう。これも前述の講演された方が話して下さったことです。ではどうするのか? 「お茶」を持ち歩いているそうです。これが、好みの問題などという次元では全くありません。普通のご飯を口にしただけで、まるでキャベツの千切りを口の中にほおばったみたいに感じて食べるのに不自由する人すらいます。なぜ「広汎性」発達障害というのか? 障害が、いくつもの面でで出るからです。
7.ナチス・ドイツと第二次世界大戦が、自閉症の臨床研究を20年近く停滞させることに影響した可能性がある。
○=自閉症について、今日も通用している3つの基本的な診断基準を確立したのが、ドイツのアスペルガーという人。クレペリンの弟子です。今回Wikipediaで調べたら、何と1901年に、すでに「アスペルガー病」と名付けた第1号の事例を公表しています。でも、1943年に、後述の、カナーと共同執筆した論文こそが、その後の広汎性発達障害の研究史に重大な影響力を持つに到る記念碑的論文です。しかし、ナチ国家、ドイツでのこの業績は、戦時中の刊行ということもあり、戦後忘れ去られ、1960年に再発見されるまで埋もれていました。
8.自閉症や学習障害の診断を受けたご本人に対して、十分な配慮とアフターケアをしながらであれば、「告知」とインフォームド・コンセントをするべきである。
○=自分がなぜこんなに苦労するのかわからないまま成人している人たちもたくさんいます。この障害の受容は、「死の受容」と同様に、「否認」→「軽く見る(価値の引き下げ)→「抑鬱」→「受容」といった展開をたどるそうです。もちろん、本人、ご家族への、わかりやすくて誤解の生じない丁寧な説明(インフォームド・コンセント)、そして、不安になったり行き詰まった時の、専門の精神科医や臨床心理士、精神保健福祉士、ケースワーカーなどに相談できる態勢、長い人生に渡って専門家の援助を受け続けられる態勢があってはじめて意味があることです。
9.第一次世界大戦の被害者が、発達障害の研究の進展に意外な貢献をしている。
○=この件について書き留めたメモがみつかりませんが、ある種の細菌性(中毒性?)の疾患についての研究が、発達障害についての科学的(化学的)解明に大きく影響したとのことです
10.自閉症の器質的病因(脳神経的な科学的・解剖学的・組織の化学分析基づく原因、外界からの物質の毒性などの要因)は近年ついに実証された。
×=ほんの数年前までは、「微細脳損傷」がよく使われましたが、生理学的にも解剖学的にも実証されていない事柄です。現在では「先天性の脳機能不全」と呼ぶそうです。なお、どのような薬が援助になるかはかなり解明されましたが、それはあくまでも対症療法的なものです。例えば、抗てんかん剤は、かなり処方される可能性が高い薬のひとつです(脳波異常がなくても)。
11.自閉症であることは、生まれて2週間の乳児の観察で、その可能性が十分診断できる。
×=これも以前の教科書にはよく出てきました。「生後2週間たってもアイ・コンタクトができない」などと。確か、カナー(「早期幼児分裂病」とは異なるものとして鑑別した最初の人。後に、アスペルガーと共著で、「情動的交流の自閉的障害」("Autistic Disturbances of Affective Contact")という歴史的論文を1943年に執筆)何と、原文(英語)がPDFでダウンロードできます!!)がすでに言い出したことだったか?
しかし、乳児の視力が弱いのは当然ですし、ピアジェふうに言うと、認知発達の面で、感覚運動期(0~2歳)から前操作期(2~7歳。 ごっこ遊びができるようになる)になかなか進まない上に、認知発達に独特の不均衡が出てくるあたりでやっと、多角的な確定診断ができることが多いとのことである。その点では、後述するように、1歳半検診と3歳児検診でのスクリーニングが重要である。本来なら「6歳児検診」もあった方がいいという意見がすでに出されているが、実現には困難を伴う。その結果、小学校入学前の「就学相談」が公的には重要なポイントとなる。しかし、対人関係上の問題や、日常の生活習慣や、情緒面での独特の問題が一番くっきりと浮かび上がるのは、まさに「幼稚園時代」となるので、費用はかかるが、「幼稚園への巡回検診」の実現をこそ提起しておられる先生もある。
ちなみに、ピアジェの発達理論の影響を受けた、発達障害や認知症の見立てと個別治療プログラムのことを、「太田(正博)プログラム」と呼び(このページ参照)、この領域の専門家ならご存じのことが多い専門技能らしい。
12.学習障害者は、例えば、社会科は学年で最優秀、しかし、算数や数学はほとんど全くできない(1450-100すら答えられない)というような現象がみられることも少なくない。
○= 先述したが、これほどすごい能力の不均衡が学習障害者にあることはまだまだ認識されていない。今回の研修会で体験をお話下さった笹森理絵さん(NHK教育テレビにも何回も登場している、自著もまもなく出版される方で、ご自身広汎性発達障害者の「語り部」として生きていくことを決断した方)は、「今は12時12分なので、15分間休憩」といわれて、それが12時27分であることを暗算できない。だから、いつもアナログ時計を持ち歩き、文字盤を1分、2分と数えているそうである。このようなわけで、「出来の悪い科目があってもいいじゃないか!!ではとてもすまない、まさに生活の基本に関わる障害なのである!!
もちろん、長所をほめることも大事であるが、むしろ、劣った能力のために生じる「その人とその家族固有の」生活上の困難を一緒になってひとつひとつ解決していくために、家族も共に学ぶ、一種の認知行動的アプローチである、ABA(応用行動分析)(このページ参照)や、TEACCH、PECS、K-ABCなどといった手法が重要である。
ABAについては、発達障害や認知症に限らず、私のような開業臨床心理士の日常心理臨床にもたいへん大きな意味を持ちそうなので、本格的に学んでみるつもりである。
ちなみに、この技法の熟練者は、「フォーカシング指向心理療法」の認知行動的アプローチとほとんど差のない領域にいると強く感じた。つまり「細やかな共感性」「場の空気を柔軟に読む力(最近はやりの"KY"=「空気が読めない」の正反対)、そして、「ご本人やご家族と一緒に考え、自発的な提案を尊重する」、「小さなステップの積み重ねの重視」「どこまでも個別的な問題解決法を創造する」といった点、そしてそれらと「容易に関係に巻き込まれない冷静さ」こそが肝心要であり、頭でっかちな技法の適用はむしろ危険であり、一件単純に見えて、実は相当な習熟スキルであり、実生活で自分のために、半ば遊び心を保ちつつもマジに役立てる域の修練が必要なのは、結局どんな技法でも同じことだと痛感した。
13.一般の人や教師が、その人が学習障害であることをほとんど全く実感できないことも多い。
○=もうここまでの説明で十分かと思います(^^)
14.癲癇(てんかん)や、鬱病、統合失調症と、自閉症が「合併症」であるケースは十分に鑑別診断されるべきである。
○=「合併症」とは、「二次障害」とは異なる概念である。まさに「同時に」そうした障害でもあることがあることをはっきり鑑別できるだけの、医師の専門的診断能力が必要ということ。最近、小児科医のなり手が少ないといいますが、どうです? この領域の児童精神医学の専門医をめざすと、すごくたいへんであると同時に、社会的に必要な、はりあいのある仕事だと思いますが? 今後、高齢者の認知症問題とともに、こうした広汎性発達障害の皆さんのための公的施設は、拡充されることはあっても減ることは決してないはずです。そして、認知症と広汎性発達障害の患者さんやご家族への専門スキルはかなり重なるようです。
15.校内暴力の加害者や被害者について、その人が自閉症や学習障害である可能性をは、今日過剰に問題視する傾向がある。
×=これは正反対。「加害者」も「被害者」も、どちらも考慮に入れるべきでしょうが、殊に、突如「特別支援学級」を任された先生方、どうかこの領域についてセミナー等を受講されることをお薦めします。
16.職業訓練所では、すでに自閉症や学習障害の人に十分に配慮された訓練体制が整いつつある。
×=職業訓練所の平均水準はまだまだとのこと、このあたりは、ケースワーカーの人の腕のふるいどころでしょうね。
17.学習障害の人は、障害者手帳の受給は非常に困難だが、精神保健手帳の受給は幅広く認められつつある。
×=これは現状では正反対のようです。入れ替えた理解が的確。
18.自閉症についての臨床研究および現場臨床においては、薬物療法的アプローチ、認知療法的アプローチ、行動療法的アプローチの間に鋭い見解の対立がある。
×=私の参加した研修会には、これらのアプローチの日本の第一人者の先生がひとりずつ演壇に立たれましたが、むしろ相補うといいますか、「.....についてはこのあと○○先生がくわしくお話し下さるかといますが」「これは先ほど○○先生のご指摘にもあった通り、...」ばかりの内容でした。
19.家族に対する支援としてのカウンセリングが、本人の変化に大きな影響を与えることがある。
○=いかに家族と本人の関わり合いが「二次障害」や社会適応、発達促進の上で決定的かはすでに述べてきた通りのようです。まして、広汎性発達障害の家族をお持ちということ以外に、いろいろ悩みをかかえている方はたいへん多いので、広汎性発達障害のご家族についてはすでに援助的ネットワークをかなりの程度高度に築かれている方については(そうでははない皆様については専門家や民間の組織をご紹介(コンサルテーション)することも重要なのは言うまでもありませんが)、通常のカウンセリングのサポートこそ補完的な意味が大きい場合が少なくないかと思います。私自身そうした経験を持っています。継続面接十数回でしたが、お母さんが自分を見つめ、個人としての日常生活をいかに自分が望む方向に具体的に改善するかをお手伝いするだけで、結果的に障害を持つお子さんへの対応も変化し、お役に立てたようです。
20.1歳半検診と3歳検診を受けなかった子供に、発達障害の可能性が高い子供たちが含まれている可能性を置き去りにしたまま、今日、発達障害者とその家族の支援システムが形成されつつあることへの危惧がある。
○=1歳半検診で10%、3歳検診で5%のご家族がお受けになっていないそうです。この中にこそ、実は発達障害の可能性を慎重に判断した方がいい人たちが有意に多く含まれている可能性があるそうです。ですから、「検診に来た」親子に対する、医者や保健士さんの鑑別能力の水準を高めるだけをもって「システムの整備」と呼ぶのは、重大な見落としがあることになります。先述した「幼稚園の巡回検診」は、そうした短所を補い得るわけですね。
*****
以上、発達障害の専門家でもないのに、書かせていただきました。
応用行動分析については、こちらの記事もご覧ください。
もとより私は、大学学生相談で、高機能自閉症の大学生の問題に最も早くから直面したひとりです。大学全入時代、そしてAO入試や社会人入試の興隆の中、この問題は大学当局者も関心を持つべき重要な課題になってきていると思いますが。
それは単に「学力不足」「コミュニケーション不全」の次元を超越している深刻さがあることについては、今回お書きした範囲でもお伝えできていると思います
実際、私が数年前、日本学生相談学会初の「発達障害」研修分科会で「ただひとり」具体的事例を報告してからほんの3年のうちに、すでに大学学生相談の現場で大きなトピックになってしまいました。
最近のコメント