田嶌誠一 著:「児童福祉施設における暴力問題の理解と対応」
私には児童相談所や児童福祉施設、少年院等、それどころかスクールカウンセラーとしてのキャリアもない。現場臨床的には大学学生相談と成人向けの個人開業だけがキャリアの全てである。
そういう私が、全750ページ、税込9,000円もする、田嶌先生の、「児童福祉施設における暴力問題の理解と対応」という本を手に取り、熟読することができたのは、他ならぬ田嶌先生からこの著作を進呈していただければこそである。
田嶌先生とは、主として学会等での飲み会の席で何回か同席させていただいた程度のお付き合いしか直接にはない(もっぱら、フォーカシングと壺イメージ療法の異同についての喧嘩とか)にもかかわらず、こうしてご著書を送っていただけたのは4回目である。
本書に先立つ「現実に介入しつつ心に関わる」もその中に含まれており、その本について簡単に解説していただいた上で、分不相応ながら、拙文をレビューとしてネットに上げさせても頂いているが、こうして度重なる形で配慮をしていただいていることには心から感謝申し上げている。
******
本書は、先生が今年度(2011年度)に大学のサバティカルをお取りになったことを活用して一気にお書きになった内容が中心のようである(最新の内容にはこの秋の事柄に言及している箇所もある)。
ここで先生が提示した、「安全委員会」方式というシステムは、ここ10年ほどの先生の児童福祉施設との関わりの現場の中で編み出され、実践されてきたシステムである。
先述のようにして、私の現場臨床キャリアからすればこの本についての感想はおこがましい気もするし、そうした領域の現場の空気を実際に味わってもいない門外漢が感想を書くことは、ひとつ間違うと非常に一面的で主観的な理解になりかねないし、そうした現場で実際に働いている対人援助職の皆様に対しても僭越だという思いも強い。
そこで、既にネット上のリソースとして、この「安全委員会」方式についてまとめた記事はないかと検索したところ、すでに幾つかの言及がある。
11/11/15現在、一番まとまったものは、
●田嶌誠一 ”児童福祉施設の子どもたちの体験と「日常型心の傷」”(里子/里親・人間の by いたち猫様)
これは、「現代のエスプリ」2010年2月号に掲載された田嶌先生自身の論文のp86~95.から抜粋したものであり、ここでは「安全委員会」のシステムそのものについては具体的に述べられてはいないが、その前提となっている問題意識についてコンパクトに述べられており、下手に私が今回の本自体から要約しなおしたりして紹介するよりはよほどふさわしいと思えるので、まずは上記のリンク先をお読みいただければ幸いである。
検索したところ、他にも2,3、この「安全委員会」システムに関連する多少の言及記事もある。
また、出版されたばかりの本書について、読みすすめながら丁寧に感想を継続的に綴っておられる児童養護施設の対人援助職の方のTwitterも拝見した。
だが、ここで、その方に許可なく直接ご紹介するのは、その方がマイ・ペースで綴っておられる過程に水を差し、ご迷惑になりかねないと思えるので遠慮させていただく。
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この「安全委員会」方式は、現在全国で17の施設で実施され、それらの施設を結ぶネットワークの大会も、2011年度までにすでに3回実施されているとのことである。
ただ、この「安全委員会」システムに関しては、(田嶌先生自身本書で念を押してお書きだが)、その概要について一回講演やシンポジウムなどで知っただけで半可通になると、多大な誤解と批判を招くものらしい。
田嶌先生自身、本書の中で、この方式の導入と定着のためには、施設のみならず、その施設と連携体制にある児童相談所や学校等の関係者が一同に会した最低3回の研修と、顧問を迎えての年単位で継続的なアプローチが必要であると釘を差しておられる。この方式を導入できるためには単にその施設にとどまらない様々な条件が整う必要があるのである。
そして更に、このシステムを採用した全国の施設間のネットワークが機能し、互いに交流していないと容易に「形骸化」するし、このシステムの(施設改善の姿勢を示すための)「言い訳的」導入は、むしろ事態を混乱させるに終わることを示唆しておられる。
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巻末に膨大な補足資料が付属しているとは言え、750ページ近い本書を読破することだけでもかなりのエネルギーを要するだろう(文体としてはいたって平易で、何ひとつ難解な専門概念は使われていないのだが、テーマの深刻さもあり、私も読み通すのに10日以上かかった)。
また、論の進め方が必ずしも「スマート」とは言えず、多分に内容的に繰り返しになっているともいえる。田嶌先生に差し出がましいことを申し上げれば、編集と推敲を重ねれば、3分の2の厚さでまとまったという気もする。
だが、同時に、先生がくどいまでに、少しずつ脈絡を変えながらお書きになっていることに一度身を浸し、虚心に読み進めてはじめて浮かび上がって理解されてくる「勘所」というものがあるのではないか?
いわば、「パワーポイント的プレゼンテーション」の対極を行く「ローテク」としての分厚い者作であるからこそ伝わる性質の「何か」がある気がする。
そして、ひょっとしたら、私は当事者ではないからこそ「素直に」読めるという側面もあったかもしれないと思い始めた。
「うちの施設ではそんなことはないよ」
とか、
「それに近いことはうちの施設でもすでにやっている」
などという物差しを当てて読まないで済む立場なのではないか?
先述の通り、高価でぶ厚い本であるが、関係者の皆様には、人づてで本書の内容を理解したつもりになることなくお読みいただくことを、僭越ながら、お勧めしたい。
******
そして、そうした児童福祉臨床を畑としていない対人援助職の皆様、それどころか、はるかに幅広い読者層の心を揺らす、何か非常に大事なことが詰まっている気がした。
大上段に振りかぶったことを言えば、児童施設内暴力とそれに対する田嶌先生の主唱するアプローチの中に、一見特殊な空間について書かれているようでいて、実は、現代日本の教育や組織・集団に欠けているものについての重大なヒントが隠れている気すらして来ている。
・・・誤解を恐れず申し上げたい。
私自身が生まれ育つ過程で一番「受けたかった」教育や援助のあり方が、本書に書かれている気がして、胸がチクチク傷んだのである。
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【追記】:田嶌先生の前著、「現実に介入しつつ心に関わる」については、当ブログのこちらの記事で、かなり詳しく私なりに紹介していました。一部私なりの要約も含んでいます。
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【更なる追記】:まだ読解が不十分であると思いますが、とりあえず、「安全委員会方式」とはどのようなものであるかの今後のまとめ記事のための備忘録のようなものをtogetterとしてまとめました。こちらからご覧ください
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