池上正樹 著 : ドキュメント ひきこもり -「長期化」と「高年齢化」の実態-
かつては10代の登校不適応にはじまり社会参入の遅延と捉えれられていた「引きこもり」現象は、
1.そうした旧来の引きこもり世代がそのまま40代以上まで高年齢化している
ことに加えて、
2.かなりの程度社会人経験を経た人たち(40代すら含む!)が、業務や社内の対人関係に行き詰まり、失職するのを期に新たに参入してくる
・・・という、以前とは異なる次元での複雑な様相を呈している。もはや「社会人経験をある程度積んだ人たちは引きこもりにならない」という通説も通用しなくなった。
本書ではそうした引きこもった当事者と家族の発言が多数採録されていて、一見羅列的であり過ぎるようにも見えるかもしれない。しかし、それこそが現在の「引きこもり」現象が一元的なステレオタイプで容易には説明できない現状を、ありのままに示していることになるだろう。単にネットやゲームが逃げ場になっているとか、本人の社会性・対人関係能力未熟さなどにも容易に還元できないのだ。
引きこもりの少なからず部分が発達障害や不安障害、うつ病、統合失調症等と診断可能な数多くの人たちが含まれているととらえられる一方で、そうした人たちを「病者」という一個人の問題として捉えるだけでいいのかという問題提起もなされている。
バブル期を経て、その後の不況と新自由主義的な経済の元で、「自己責任」で結果を迅速に次々出すことが求められる業績至上主義に、会社組織そのものが変容した。それが、会社内での人間関係の質そのものにも影響し、家族主義的なサポート体制を急速に失ってギスギスしたものとなり、むしろ生真面目でコツコツやる層にこそ、新たな不適応を生み出している。
更に雇用状況の悪化。履歴の空白がある者に「敗者復活戦」を容易に許さない日本の風土もあいまって、一度働くことから「降りて」しまわざるを得なかった層の再度の社会参入をも厳しいものにしている。
そうした社会変容の中で、「引きこもり」概念そのものが、従来とは全く別の次元にシフトすることを迫られているのだ。
引きこもりの人を抱えた家庭そのものの生活困窮化も加速している。引きこもりの人間の大半が親と同居しているため、生活保護の対象にもならず、現在の日本の公的セフティ・ネットの外側にいる。
疎外され、孤立し、自分や環境をネガティブにとらえる悪循環を断ち切るには、人とのネットワークが必要だ。本人が参加できなくても、家族がそうしたネットワークに参加するだけでも確かに一つの契機になる。
ただし、本書で取り上げられている、様々な「引きこもり当事者の会(親の会)」の活動は、恐らくまだ大都市部を中心とした団体であり、そうした会への会費すら払えない層も少なくないという。こうした団体へのアクセス性そのものが非常に難しい地域もまだ多いのではないかという感想も持った。
また、発達障害についての記述(実際、そうした診断をも受ける方が少なくないのは確かだが)は、やや表層的な次元にとどまり、新たな誤解を生む懸念もある気がする。
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