「乱造される心の病」は英文学者ではあっても、結局医学や心理のアマチュアの書いた、トンデモ本スレスレ水準だと思う。(第3版)
前と後ろから攻めて3分の2読みましたけど......
もうだいたいのところはつかめました。
2009年10月4日付読売新聞における春日武彦氏による本書の書評は、まるで本書がうつ病と診断されている人について書かれた本であるかのような誤解を与えかねない記述になっているが、本書の実態はそうではない。
この本はあくまでも、単に内気(原題:"Shyness")な人が、特に「社会不安障害」という診断に祭り上げられる過程について告発する意図で書かれたものである。
しかも原著者は精神医学の専門家ではなく、気鋭のジャーナリストですらない。英文学者である。amazonの英語版サイトで星ひとつの人の酷評ぶりはすさまじい。
「この本は教養課程キャンパスの象牙の塔の中で広まっているように思える、奇妙で、反科学的なパラノイアの典型です」(Gina Pera氏)
結局、純情なまでの「フロイトおたく」の英文学者が、「正義の」力動精神心理学(=「フロイトの」精神分析。しかもかなり単純化されている)の旗の下、クレペリンに始まる「伝統的精神医学=脳科学主義者=薬物療法推進論者」の系譜という「悪の枢軸」を「仮想敵」として仕立て上げて、熱心にいろいろ調べて書いた、「まずは結論ありき」の本である。
フロイトを引用する時の意図も、時々あまりに強引に自説に好都合な形になっている(それは、素直に読めば、「フロイトは将来の薬物療法の可能性に期待をかけていた」ことを示唆する筈の、「精神分析学入門 (中公文庫)」で書かれたフロイト自身の叙述を引用した、p.213以下で顕著に明らかとなる)。
DSMを「脳科学=薬物療法的」観点からのみとらえるのは強引。むしろそこから一定の距離を取ることに腐心している面もある。
むしろ、DSMが良きにつけ悪しきしつけ、行動主義的な「操作的定義」であり、特定の見地からの「原因論」に立ち入らないことを目指したとみるのが正道のはずである。
薬物療法を使う医者が、まるですべて生得的な脳の問題としてしかとらえていないかのような「極論化」が行き過ぎている。心理的・社会的要因を無視する精神科医はそう滅多にいないと思う。
つまり、医者が、DSMに「基づいて」診断や治療を「決めて」いるというのは、もはや「都市伝説」の領域に近い。
心ある医師は、DSMが「診断基準」としては全く表層的なのを承知で、「共通語としての診断名」をDSMから慎重に「あてはめている」だけのことである。
(もっとも、どういうわけか、本書では、統合失調症と「重たいうつ病」についてだけは、同じ論理では斬り掛らない。もうこの段階で「内因性精神病」概念の確立者としてのクレペリンを肯定していることになる「自己矛盾」があるのだが)
*****
更に、裕さんのサイトふうに(^^)、翻訳の誤りを指摘すると、pp.41-42に出てくる「フランスのピエール・ジャネット」は、もちろん「ジャネ」が正しい。
・・・・ああ、フロイトの先駆者である筈の「力動心理学の雄」のジャネ様に何たる仕打ち。
(ジャネのフロイトの先駆者としてのあまりの重要性については、エレンベルガー(エランベルジェ)の「無意識の発見」(中井久夫訳)の上巻に詳しい)
*****
読んでいるうちに、精神分析系の人なら、大学院生の皆さんでも、内心(^^;;;;)な本だとお思いになるんじゃないかと。
ひ・い・き・の・ひ・き・た・お・し
*****
●Amazonにレビュー掲載
しています。
★★にしているのは、著者レーン氏の旺盛な資料収集や取材量に敬意を表して★ひとつ余計につけたというだけのこと。
冨高氏の著作の方を、その誠実さに敬意を表して★★★プラス2分の1とみなしていただいていいくらい、というのが本音です。
【第2版で追補 09/11/8】:
Amazonレビュー版、本書を読み終えた段階で、更に推敲を重ねて、密度の高いものに練り上げました。
【第3版で追補 09/11/10】:
Amazonレビュー版、更に更に練り上げて、「止めを刺して」おきました(^^)
この、長文のクリティカルなレビューが、なぜかすんなり掲載できた裏話をひとつ。
Amazon日本版のレビューでは、"Amazon"あるいは「アマゾン」という言葉が入っていると、それだけで掲載されないフィルターがかかっているようです。これは煽りや議論のフレーム化を防止する対処なのでしょう。
ところが、私が初稿をアップした時、私はいつの間にか、amasonとミスタイプしていたのですね(^^;) あとになってそのことに気がつき、その部分を"amazon"ないし「アマゾン」と打ち直して再アップしようとすると、その場合にだけ更新が反映されないことに気がつきました。ですから上記の「禁止語フィルター法則」は間違いないと思います。
他の箇所は、一度掲載された以上は、どれだけ、どのように書き換えても瞬時で受け付けてくれます(^^;)
*****
本論の続編、レーン氏がフロイトをいかに恣意的に引用し、自説に都合のいいように解釈しているかの典型例の指摘はこちら。
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DSMは大雑把に言えば良くも悪くも診断のためのマニュアル本ですよね。
http://d.hatena.ne.jp/p_shirokuma/20091103/p1
↑にわかりやすく書いてあった。
投稿: anomy | 2009/11/04 23:53
>anomyさん
リンク先の記事、初代ガンダムを大学に入ってから初回放映時に観た世代として、楽しませてもらいました。
本文でも描き足しましたけど、実はDSMの、ましてやこの「手引き」だけで「診断と治療を決めている」医者なんていない(いたらそんなのに通うのやめた方がいい、マニュアルめくってる最初の頃のアムロ以下かもしれない)
まあ、この本やこの本までじっくり読んで、先輩の指導の下に、大勢の患者さんと会っていれば、ジムの「仮免」ぐらいまでには「ある程度までは」なるかな。
でもやはり「実践経験」で先輩から教わっていくのがないとホントはどうにもならない。別の記事で書いた表現を使えば、「テクニック」ではなくて「スキル」なんですよ。やっぱりね。
そうやって、ある段階に達したお医者さん同士で、書面上で情報交換する際に、「共通語の符牒」として、しかたなく「あてはめて」いるだけ。
私自身、少なくともDSMの診断「2軸」の「人格障害」の診断基準に関しては、ほとんど全く実効性がないと思っています。「境界例パーソナリティ」と「自己愛パーソナリティ」の区別、そしてそれらと精神病水準や神経症水準、気分障害との鑑別までは必要でしょうけど、あそこに書いてあることだけでそれができるのか? あとの「回避性」とか「依存性」とかは、もうなんだかなあ・・・と思っています。
まあ、少し懐かしくもややマニアックなところでいえば、「王立宇宙軍 -オネアミスの翼-」(私は名作だと思ってますよ)で、主人公のシロツグが、建設中のロケット発射台を見上げて、
「♪張ーりぼーてー、張りばーて、超ーお巨大な、張りーりぼて!」
と言いつつ、実際に地球周回飛行ができたくらいにはDSMに存在意味があるかと。
投稿: こういちろう | 2009/11/05 05:47
自己レスです。
11/8に第2版に改訂しましたが、それは最後の方の、Amazonレビューの改訂にかかわる「裏話」の部分だけです。
11/10第3版は、amzonレビューを、更にダメ押し改訂して、本書に「止めを刺した」ことのご報告です(^^)
私が本書をすべて読み上げた段階での感想は、Amazon版レビューの改訂稿ので、最終的にまとめて書いたつもりですので、興味のある方はそちらをご覧下さい。
投稿: こういちろう | 2009/11/08 09:41