「ハウルの動く城」におけるハウルと火の神の関係
昨日とりあえず書いてから、一晩眠って、少しだけ、この作品を観る上での鍵となる部分について、私なりの理解を解説したくなりました。
※以下、完全にネタバレです※
終わりの方の、子供時代のハウルとソフィーが遭遇するシーンから読み取れることに焦点を絞って、私なりに解説してみたいと思います。
この作品世界では、魔女という存在が人の「心」を奪い取ってしまうということが繰り返してモチーフとして登場します。
映画の前半から観ていると、繰り返し反復されるパターンとして明白なのは、空から流星群のように、青白い光の玉が降り注ぐ時というのは、この国の王室付き魔法使い(というより、もはや実質的支配者ですね)、マダム・サリマンが、人の心を誘惑し、「心を奪い取る」ことで「使い魔」にしてしまう、まさにその時なのですね。
つまり、ハウルはある段階で確かにサリマンが校長をしていた魔法学校に入学し、修行を積んだのは確かでしょうが、実はそれ以前の子供時代の早い段階で、サリマンに「目をつけられ」、すでに魂を奪い取られていたのだと思います。
ところが、ハウルが、こうして魂を奪い取られる瞬間に、どうも他のケースとは異なることが生じたようです。
つまり、ハウルが青い光の球を飲み干したケースに限って、ハウルの「心」を実際に仮託した対象は、その瞬間に生み出された(?)、火の神カルシファーに対してだったのですね。
つまりここですでに、ハウルとカルシファーの間に交わされたという「契約」の本質が十分絵解きされています。
- ハウルはカルシファーに自らの魂を仮託する。
- ハウルはカルシファーの炎にエネルギーを備給する責任を負う。
- カルシファーは、その代償として、ハウルの言われるがままに魔力を使ってあげねばならない。
恐らくこの3か条が、ハウルとカルシファーの間の契約内容です。
このことが、マダム・サリマンに対するハウルの「相対的な」自立性(完全に自由にはなれないのですが)が、かなり早い段階から確保できていたことを示唆します。
そして、その、(ユング風に言えば)グレートマザー(大母)的なサリマンに、単に飲み込まれてはしまわないで、ハウル自身の「自我(ego)」を形成、維持する上での心の支えとなっていたのが、時空を越えて表れたソフィーと、ソフィーからの「約束」だったということになります。
ソフィーは、結果的に、前思春期以降のハウルのおぼろげな記憶の中で、女性像の元型(つまり、アニマですね)として機能し続けていたことになります。
アニマというのは、男性に内在する「内なる女性」ですが、実はアニマを「対象化」して思い描き続けられるから、男ははじめて男としてのアイデンティティを形成して行ける、社会的な仮面としての「ペルソナ」(ハウルがいくつもの変名を持つことに象徴される)も形成できるともいえます。
もっとも、ハウルにも手痛い失恋の経験があった。つまり、ハウルですら、「アニマの投影」の対象としてふさわしい現実の女性を見誤ることはあったようです(見かけが二枚目過ぎるから、女性ととりあえず付き合うまでは、魔法使いであることを巧妙に隠した次元でなら、あまり苦労はなかったろうと思われます(^^;)
*****
いすれにしても、ハウルは「カルシファー=炎を自由に操れる存在」まさに、この前「魔女の宅急便」論で書いたように、バリントの言う「地水火風」という、「前-対象」的なもののうち、何と2つも味方につけている(飛べますしね)。
こうして、ハウルはフィロバットに分類できます。
(フィロバティズムを鍵概念とするバリントの「治療論からみた退行」についての総論を、こちらで書きました。)
*****
今回は、ユング的理解も加味してみましたが、ここで書いたことでしたら、故・河合隼雄先生の「ユング心理学入門」の第8章「アニマ・アニムス」を中心とする章で十分参考書になると思います。
・・・・こういう言い方が少し偉そうに響いたかもしれませんがお許しを。
私はユングの畢生の大作のひとつ、「変容の象徴」を、若き日から心理学書ベスト5に入る溺愛をしてきた、意外とユングおたくな人間なので。
*****
なお、ユングの著書(論文集)の中では、以前もご紹介しましたが、現場臨床家の人には「心理療法論」が、一般にはあまり知られた本ではないですが、流派を超えて、刺激になるかと思います。
絶版しているようですが、中古市場で容易に入手できます。
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