NHKのクローズアップ現代・「抗うつ薬の死角 ~転換迫られるうつ病治療~」について(第3版)
本日(6/1)19:30に放送された内容に基づいて、速報します。
SSRIの副作用として稀に見られる、衝動性・暴力性誘発という問題について踏み込むと言うことは事前に知っていましたが、それでも全体としては、当ブログでも大々的に連載を組み、ご愛読いただき続けている、3/7放送のNHKスペシャル「うつ病治療 常識が変わる」の補足的・復習的続編という色彩が強いだろうとは思っていました。
その意味では、番組の構成的にも全く予想通りに進行してしまって、押さえて欲しかったポイントはほぼすべて押さえてくれ、前回の番組で誤解を招きかなかった側面(認知行動療法だけを積極的に描きすぎていた面)はうまく調整されていたと思います。
医者や臨床心理士や看護士にとどまらず、栄養士すら含むさまざまな役割のスタッフが、皆、患者さんをケアし、見守る援助資源であり、誤診や状態の変化に対応できるチーム医療の上でいかに重要かを改めて強調していた点についても好意が持てました(薬を必要以上に出さないことは大事ですが、この番組後半で紹介されていた事例が、画面を見る限り、入院治療である点に注意すべきかと思いますし、薬物療法をやはり大事にしている点も見逃すべきではありません)。
また、番組内でも繰り返しテロップすら出して強調されたのは、この番組を観て不安にかられるあまり、自分だけの判断で薬にやめてしまうと非常に危険なので、疑問があればお医者さんに相談してください、ということでした。これも適切な配慮でしょう。
*****
さて、今回の番組の前半で中心として取り上げられたのは、先述の、抗うつ、SSRI)が、人によっては、攻撃性や衝動性を誘発する副作用が出る可能性があることを、この4月に、厚生労働省が、製薬会社に注意書きとして掲載することを義務付ける通達を出したという点でした。
日本では、SSRIの投与が現実の衝動的な暴力事件と因果関係を厚生省が正式に認定されたケース事件はまだ4件しかありません。
この番組でも紹介された、1999年の、機長を殺害し、精神鑑定の結果無期懲役に減刑された、全日空61便ハイジャック事件で、抗うつ剤大量服用による心神耗弱が無期懲役への減刑理由となったことはかなり知られているかと思います。
全日空事件に関しては、そもそも、通院していた医者の当初の診断も理解しかねる(統合失調症ではなくて、この段階では詐病していた疑いがあることは当時も報道されたかと)し、結果として出されていた薬のリストを見ると、医者ではない、限られた知識の私の目から見ても、もう、どういう判断でこうした薬がここまで大量に出ていたのか、目を疑う内容が列挙されていますので、判決のように「『抗うつ剤』の大量服用の副作用」だけ認定したというのは何か腑に落ちないといいますか、医者の診断と投薬のあり方そのものが大きく問われる事例と思えてならないあたりが、今回の番組では不十分な描き方と思えますが、その部分を詳しく描きすぎても番組のバランスを崩したでしょうから、敢えてクレームをつけるに及ばないかと思います。
そして、アメリカの、あの「コロンバイン高校銃乱射事件」(1999年)の犯人のひとりもまた、犯行直前に、大量のルボックスを服用していたことが、この番組で紹介されます(wikipediaによれば、犯人の遺族からの製薬会社の告訴による訴訟においては、薬との因果関係は立証されなかったものの、2002年にこの薬はアメリカ国内では販売中止になっているそうです)
アメリカでは、すでに2004年の段階で、SSRIがその副作用として攻撃性を誘発するか可能性があることを注意書きに明記する命令が製薬会社に出されていました。
*****
もとより、こうしたSSRIが攻撃性を誘発する副作用を人によっては発揮する可能性については、こうした大犯罪事件のみならず、数多くの、もっと地味な犯罪・警察沙汰の事件、そして現場医療の中で気がつかれた患者さんの衝動性の高まりなどの行動変化についての、少なからぬ症例に基づいて浮かび上がってきた事柄です。
番組では、日本での2つのケース、すなわちパキシル投与後、言動が攻撃的になり、ついにはコンビニに包丁を持って強盗に押し入り、現金20万円を奪取した事件、そして、配偶者を殴って10針の傷を負わせた事件という、2つの事件における、診断と投薬の過程の問題点が、ご本人と家族への取材映像を含めて紹介されていました。
前者のケースは、投薬開始後早い段階から、家族に対して衝動性・攻撃性が増していたにもかかわらず、医者は、まずはパキシルを3倍にまで2段階かけて増量し、その段階で「効かないから」という訴えを受けて、一転して投与全体を中止。それから数週間後には再び、かなりの量の投与を再開、更に増量(当初の4倍)という、実に頻繁な投与量の増減がなされていた点が、番組で、重要な問題点として指摘されました。
SSRIを飲むことを「急にやめてしまう」ことは、実は非常に危険であり、身体面でのリバウンドの危険も大きいばかりか本人を更に不安定にする引き金ともなるのです。ですから、患者さんが勝手な判断で飲むのをやめてしまうことは是非避けるべきです。お医者さんの指導の下で徐々に減薬していった上で、別の薬等の治療に置き換えて行くのが適切です。
(私自身、お医者さんが何を思ったかパキシルを突如全部やめてしまってデパスのみに置きかえるという、常識はずれの処方をしてきて、その際に身体がどのくらいリバウンド食らうかの恐ろしさを体験しています)
もうひとつの後者のケースは、すでに以前もご紹介したように、実は双極性障害の「うつ状態」のはずなのに、単極性障害とのみ誤診され、気分調整剤ではなくてSSRIのみが中心的に処方されたケースでした。この患者さんは、おかげで躁鬱の波が余計に悪化するというパターンにはまって、奥さんに暴力を振るってしまったのですね。
↓「NHKスペシャル」で用いられた図の再掲です。今回の番組で掲載されたのは「双極型障害Ⅰ型」についてのもので、躁状態方向への波の振幅も高まっていたので、少し違う図になるのですが、参考までに転載します。


この番組の中で、単にSSRIそのものに不安や緊張の低下と同時に、衝動性抑制の神経伝達物質代謝まで緩んでしまう作用を起こす可能性の示唆にとどまらず、お医者さんの側に、適切な診断の下で、薬を的確に使いこなせていない未熟さがまだ見られることが大きな原因であることを強調していた点は、重視すべきでしょう。
この取材に応じ下さった患者さんお二人が異口同音に語った事柄が印象的です。
「そういう時には、まるで自分が自分ではないみたいな、独特の感じなんです」
「何かにムカついてきて、イライラが高まる時のイライラとは全然違うものなんですよ」
****
今回の番組の中で、ゲストの医療ジャーナリストの小出五郎氏は、日本の薬事法における、薬の副作用についての国への報告システムの問題点を指摘していました。製薬会社や大病院からそうした副作用報告を吸い上げるパイプは制度として整備されているのですが、個々の医師(開業医を含む)や患者・家族から、そうした、薬の副作用についての情報を、たとえ曖昧で確証がなくてもいいから吸い上げるまでの公式のシステムが制度的に存在しないそうです。
「副作用情報はいったい誰のためのものかということです。何よりまずは患者さん、そしてご家族にとってなくてはならないはずのはず。そうした情報を専門家と共有するためのネットワークの整備が制度的にも急務」
というのが、小出さんが最後に強調した点でした。
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コメント
はじめまして。healing-wayです。
ただいま、アモキサンとデプロメール服用中のちょいプチ鬱な状態です。
SSRIが攻撃性を誘発する副作用があるのは、このブログを見てはじめて知りました。
この前病院に行ったときにちょっと攻撃性がでてきてるのでデプロメールを少なめにしようかと言われた意味がようやくわかりました。
正しく、病院の先生の処方通りに薬を飲むのがよさそうですね。
大変参考になりました。
投稿: healing-way | 2009/06/02 08:03
healing-wayさん、はじめまして。
「易怒性」や「衝動性」が、「躁状態の」人のある部分に見られがちな特性として語られるのは理解できても、本来うつ状態の人らしからぬ特性なのだと思います(自分も体験者だからわかりますが、「焦燥感」はうつの人につきものですけどネ
)。
ですから、投薬治療を受けている方で、抗鬱剤処方前よりも気持ちが穏やか安らかにになるというより、むしろ自分が「怒りやすく」なったとか、「わけのわからない衝動性」にかられやすくなったかな?とお感じの皆さんは、それは薬の副作用によって喚起された「人工的な躁状態」である可能性について、お医者さんに尋ねてご覧になってみるのも望ましいのではないかと思います。
この状態になると、患者さんご自身ではなくて、まずはご家族など、周囲の人の方が、「この前まで打ち沈んでいたのに、最近、以前になかったような形で、妙に『とげとげしく』なったきた」などと違和感を感じ始めることが少なくないようです。この段階で、些細なきっかけで、お医者さんとの関わりそのものを投げ出したくなる衝動も、患者さんには生じやすい。でも、もしそれが実はSSRIの副作用であることに医者も患者さんも気づいていないためだったとしたら?
この番組はその点についての重大な問題提起であり、「犯罪を犯す可能性」などという側面でのみ、センセーショナルに受け止められるのは間違いだと思います。
この番組ではそのあたりのバランス感覚を失わず、医師とのいい形でのコミュニケーションがなされている中での適切な処方であれば、SSRIが役立つ患者さんがたくさんいることについてもきちんと伝え続けている点が重要かと思います。
薬物療法なしで鬱が治療できることを安易に吹聴する論調には、常にまゆつばで臨むべきかと思います。これは、他ならぬ私が、双極性II型という診断に切り替わり、気分調整剤であるデパケンの実質的「単剤処方」で、わずか3ヶ月の間に、5年来の鬱(更にいえば、思春期以来、実に35年におよぶ、一種強迫的な心性に振り回されていた側面)から完全復調してしまった中でつくづく実感していることです。
もとより、双極性II型の人でも、ここまでシンプルに改善されない皆様がたくさんおられるのは承知していますが、誤診に気がつき、薬の投与が変化し、お医者さんといいコミュニケーションが持てる関係になるだけで、長年の堂々巡りを脱出できる皆様も決して少なくないこともまた、確かかと思っています。
投稿: こういちろう | 2009/06/02 15:27