ドライアイスと10円硬貨
子供の頃、(いや、大人になっても?)多くの人が、何回かはやったことがあるだろう、暇つぶしのような遊び。
アイスクリームを買ってきた時についてくるドライアイスに、恐らく最初は、アイスクリームを食べる金属製のスプーンかフォークか何かを押し付けてみる。すると、スプーンを通して伝わる体温のせいで、押し付けた部分が、ドライアイスが二酸化炭素に気化する際の、独特のプスプスという手応えが帰ってくる形で、みるみる、押し付けた形のままにへこんでいく。
このことが面白くなって、ふと、財布から10円硬貨などを取り出して、ドライアイスに硬貨の面ごと押し付けてみた人もあるだろう(わずか1,2ミリの厚さを通して指の体温が、しかも銅という熱伝導に優れた材質を通して伝えられるので、これはすこぶる効率がいい)。
すると、たいした力を入れなくても、ピリピリという音を立てて、ドライアイスに硬貨は沈み込んでいき、硬貨の刻印の形の鏡像が、見事にドライアイスに「刻印」されることになる。
(長時間このことをやりすぎると、指が凍傷になる危険もあります・・・・・と注意書き)
******
私がフォーカシングを学びはじめた25年前の頃、フェルトセンスに触れることについて、時折、「ドライアイスに硬貨を指で押し付けていく時のような体験だ」と周囲にもらしたことがあることを、ふと思い出したのである。
そこに私が込めたかった含蓄というのは、恐らく、次のようなものだ。
フェルトセンスにしばらく触れているだけで、フェルトセンスの質そのものが何らかの緩みや肯定感を持つものに変化していく。
最初は「凍えるような」、何か危険な感覚に思えたものが、むしろ「気持ちのいい冷たさ」を味わう、好奇心に満ちた「スリル」体験となる。そして心の中の何かが少しずつ「解けていく」。
必要なのは、まさに硬貨をドライアイスに押し付けるのに必要なのと同じくらいのかすかな力の入れようで、意識的、能動的、主体的に、一度つかんだフェルトセンスに、ただ注意を向け続け、「触れ続ける」こと。
あとは、そのことのために日常の限られた数分間に意識的に取り組むだけで、一見はっきりした気づきや洞察が生じなくても、気がついてみると「指で硬貨を押さえたドライアイスの部分には、以外に深いトンネルが、まるで地下鉄のトンネルのシールド工法のようにして、掘り進まれていく。
掘り進まれていく際のかすかなプスプス・ピリピリという「進捗感」の手応えを受け止めているだけで、何かが「掘り進まれていく」のである。
大事なのは「しばらく触れてみる」、ただそれだけ。
*****
昨日の記事で、
「すべてのことには、時がある」
と書いた。
だとすれば、マジシャンのそうなフォーカシング・トレーナーではない、ひとりのフォーカサーとして、日々実践できる「個々の人間の自由意志の及ぶ範囲の努力」とは何なのか?
フェルトセンスに触れ、共にいる、ただそれだけの主体性・能動性・自律性を発揮し続けること、それだけで、最低限いいのかもしれない。
「今日は昨日までよりフェルトセンスに触れてみるのが難しい」という体験ですら、実は、逆説的な意味で、フェルトセンスに「触れた」体験なのである。
「何か、昨日よりも心の余裕を見失っているのかな?」と用心できるだけでも、すでに意味がある。
そう。ドライアイスに10円玉を押し付けてみる以上の労力は、フォーカシングには必要ないはずなのだ。
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