SART(主導型リラクセイション・セラピー)のセミナー参加報告 [第4版]
福岡市で行なわれた、臨床動作法の新たな流れというべき、SARTの体験セミナーに出席して2週間半もたってしまいました。
以前お約束した、開発者の大野博之先生(福岡女学院大学 NPO法人心理リハビリテイションセンター)に「自由に書きなさい」とむしろ発破をかけていただいた報告記、お待たせしました。
****
そのセミナーの最初の講義で、大野先生が、まさに「前フリ」としてお話になったことを今回は書いてみたいと思います。
「今、心理療法の領域で、一番元気がいいのは認知行動療法だろう。しかし、認知行動療法は、翻訳文化そのものというか、輸入された、そのままの形で日本中で教えられている。つまり、教えられたままを教える、という形に留まっているように思います....」
九州大学の成瀬悟策先生が開発した「臨床動作法」は、その基本的な着想から、その独特の心と身体の関係についての理論、そして現場での臨床実践とその適用範囲の拡大が、日本人の研究・実践者の間で草の根レヴェルでも学術的にも発展してきた、世界に誇る日本発のセラピーのひとつである。
今や、自閉症スペクトラムを含む乳幼児発達障害、知的障害、事故等による障害からのリハビリ、認知症、終末期医療を含む、それこそ、ゆりかご(生後数ヶ月の乳児にも可能!!)から墓場まで、臨床動作法の適用対象は広がっている。この対象年齢と適用領域の広がりという点では、恐らくどんな心理療法も臨床動作法には適わない。
何しろ、成瀬先生の教えを受け、なが年福岡教育大学で教鞭をとられ、臨床動作法における中心的な役割を果たしてきた鶴光代先生が、現在の日本心理臨床学会理事長である。
実は、臨床心理士の世界の内部では、そのくらいに臨床動作法がメジャーであることについて、殊にネットの世界ではほとんど全く知られてない(ネット検索すると、その情報量の乏しさには驚きを禁じえない)。臨床動作法の関係者の皆さんこそが、まさに「リア充」の典型を生きる援助職の皆様というべきかも知れない。
しかし、そうやって発展してきた「臨床動作法」そのものが、実際には、ひとつの重大な問題に直面していることをひしひしと実感する最前線にいたのが、まさにこの大野先生でした。
*****
臨床動作法には、一定の、一連の動作課題がある。それは当初、障害者の肢体不自由を改善し、少しでもその人たちの行動の自由を増すことを援助するためのものであった。
(それはその後、身体への働きかけを通して実はメンタルな治癒も進んでいるという発見につながり、それは障害者に限らず、誰にでも効果があるセラピーとして普遍化されていくのですが)
しかも、その特定の動作課題を達成してもらうために、援助者は、対象となるクライエントや障害者の人たちを完全に受身にする.....十分に心身をリラックスさせて、施術者に不安や緊張を感じることなく身を委ねられるように導くのが効果的であるという、たいへん「逆説的な」アプローチを採用した。
もとより、そのことを可能にしたのは、成瀬先生がすでに催眠療法とリラクゼーションの大家だったからであることは、知る人ぞ知るとおりである。
そして、ある意味ではその逆説こそが、臨床動作法の真髄であったことは間違いない。
*****
だが、それでも、日本のどこかの研修会や臨床現場で、時折、間接脱臼や骨折等の「事故」が生じるという現実に直面する。動作法関連の組織の委員=責任者として、大野先生は、多忙な時間の合間を割いて、そうした事故が生じた日本の各地の障害者やそのご家族のもとを訪問し、お話をうかがい、謝罪する旅を続ける、まさにその当事者だったのだ。
大野先生は、この問題を解決するため、旧来の臨床動作法が自明の前提としていた原則そのものを大幅に見直し、ある意味で更にもう一度逆転させるという、大胆なアプローチに踏み出していく。
「腕を上に上げて下さい」.....でも、どのように腕を上に上げるかについては、まずは自由にやってもらう。
援助者はそうしたクライエント側の自発的な動作と、それを本人がどう体験しているかを丁寧に見極め(熟練トレーナーは、この、姿勢や身体感覚を共感的に「観る目」の感度が半端ではありません!!)、相手の身体に触れて感受しながら、無理のない、最低限の範囲でしか動作補助をしない。
それどころか、クライエント側の人各自が自分なりに動作課題を工夫し、案出し、「つまみ食い」的に日常で繰り替えることを奨励すらする。
動作課題は、クライエント(子供でも、重度知的障害者でも!!)が、無意識のうちに日常の中で繰り返す、自発的(主導的)なユニークな一連の動作の一部に過ぎなくなる。
こうして、何と「今のところ事故率ゼロ」の動作法が、ついに開発される!!
******
それは更に、最初から独習するための読者を前提とした、「ひとりSART」のためのヒント集的なハンドブックの公刊という、我がフォーカシングが未だ果たしえなかった成果を、すでに達成してしまったのである。
だが、大野先生はそれでもなお強調する。
「ここに書いてあることを全部やってみる必要なんて何もないのです」
と。もう一冊の新著は、ついに「ヒント集」に過ぎないことを明確に打ち出した。
(これら2冊は直販制です。DVD版もあります。ご注文はこちらのサイトをご覧下さい)
そこには、「トレーニング・マニュアル」として、あたかも学校の教科書のようにして学んでいかねばならないという発想への、強烈なアンチ・テーゼが内包されていると思う。
*****
私の知る限り、認知行動療法になじめなかった人の多くが語る不満、それは、それがまるで「学校の勉強みたいだ」という点に共通項がある。
(もちろん、臨床面接の現場で、患者さんの反応を見ながら、全く臨機応変な新鮮さを保ちつつ認知行動療法を生かしているカウンセラーが確かに実在することも、私は承知しているが)
幸か不幸か、ある意味で学校での勉強のように学ぶことから一番遠い形をとらないと真にスキルアップしないのがフォーカシングのトレーニングである。
ところが、SARTのセミナーでは、そうした、フォーカシングトレーナーのすべてを驚愕させる、想像を絶する実例がすでに蓄積されつつあった事実が明らかにされたのである。
それはどのようなものか?
【第4版での追記】:
・・・・・それについてより具体的に別記事でお書きする予定だったのですが、機会を逸したまま今日に至ります。
いずれ書評の形でいか貴意したいと思っていることには変わりがありませんが、これを機会に、タイトルにあった「予告編」の文字は取り下げさせていただきますことをお許し下さい
*****
【追記】フォーカシングと臨床動作法の出会い
共に九州大学が日本での臨床研究の聖地であったという兼ね合いから、フォーカシングと臨床動作法の間の交流は、特に九州ではすでに四半世紀の歴史を持っている。
私も、約20年前学会での、成瀬先生、鶴先生、池見先生らを交えた自主企画シンポジウムのすでにフロア参加し、成瀬先生のあまりにも強烈な個性に接した。
(きっと大丈夫なので、正直に書きます!!)
「このおじいさん先生、もの凄く偉い人かもしれないけど、もう少し人の話を聴いて欲しい!!」
とあきれ返りながらも、諦めずに論戦を挑み続けていた、若き日の私がいた。
今にして思えば、それこそが、成瀬悟策先生にしかない、豪快な生き様の一端だったのだと思う。これほとインパクトのある大先達の先生には、確かに他にお会いしたことがなかったのである。
つい先年、全くの偶然のようにして、成瀬先生や鶴先生と同じテーブルでのお酒の席につく機会が学会研修会(福井)で生じた。私は、当然昔の私のことなど覚えておられないという前提で成瀬先生のお酌をした。
昼の部での動作法の実習講義、そしてその宴会の席で深く感じさせられたのは、一見豪放であるかに見えた成瀬先生の中に、クライエントさんへの、類稀れなやさしい心遣いか秘められているということだった。
この先生は実は凄く繊細な方だと。
*****
それよりかなりさかのぼるが、10年ほど前、私の少し先輩の学習院大学の伊藤研一先生と、「現代のエスプリ」410、「治療者にとってのフォーカシング」の共同編集を進める中で、伊藤先生が臨床動作法とフォーカシングを重ね合わせた時に何が見えてくるのかに、たいへんな関心を抱いておられることを知った。
伊藤先生は、このエスプリの特集の中で、当時兵庫教育大学に奉職されていた冨永良樹先生に、「フォーカシングと動作法」という原稿を依頼し、掲載されている。
これが、私が直接掌握している、フォーカシングと臨床動作法の日本での出会いの歴史である。
****
もっとも、「リア充」な福岡の大学院生たちは、今も実にフットワーク軽く、動作法、SART、フォーカシング、精神分析のワークショップを飛び回っているわけで、そうした院生たちこそ、フォーカシングと臨床動作法の、草の根での出会いを、すでに紡ぎ続けている、「地上の星」になるべき若手たちなのだと、私はつくづく思っている(^^)
私はそうした若手の皆さんに、その得がたい機会を自覚しないまま、今の時期を通り過ぎて行って欲しくはない。
だから、こうして、草葉の影から、もとい、草の根臨床のまだまだ新米中年として、若手に、そのことに注意を向けてもらうきっかけになりそうなことを書くのだ。
これこそ、すでに中堅になった私に、全く無理なくできる、「出会い」のセッティングである(^^)
(ああ、もう仲人をする齢だったりして)
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