完璧な天使であるか、燃えるゴミとみられるか -「マイ・フェア・レディ」のダークサイドとしての「市民ケーン」-
恋愛において、例えば女性は、男性に、すばらしい魅力的な愛情深い女性だと惚れ込まれ、尽くされ、愛おしまれるか、それともファム・ファタール(悪女。ドン・ホセにとってのカルメンのような、男を利用し、もてあそぶ「運命の女」)とけなされるかという両極端を行き来するジェットコースターの振幅にどこまでつきあえるか(=ひとつのスリルとして楽しめるか、あるいは耐え忍べるか)がその展開を決めることが多いのではないかと思う。
男はといえば、女性から「白馬に乗って現れた王子様」とみられるか、それとも「私の身体(容貌、財産、主婦的機能etc.)だけが目当てだったのね!」とみられるかの振幅のシェットコースターの乗り心地をどこまで乗りこなせるかであろう。
ところが、人は恋愛において、このような、自分にとって相手が「善」か「悪」かという振幅に耐える(乗りこなす)というモデルに基づく経験値だけでは、とても説明がつかない傷つきを、体験することがある。
わかりやすいのは、「史上最高の映画」とまで呼ばれる、オーソン・ウェルズの、「市民ケーン」において、ウェルズ演じる新聞王・ケーンの2番目の妻となる、スーザンの陥った地獄である。
彼女は、大統領の姪である先妻を差し置いての不倫という大スキャンダルを経て、ケーンに選ばれた。大邸宅ザナドゥで何不自由のない生活を与えられるばかりか、歌手志望だった彼女のために、ケーンは、頼まれてもいないのに大オペラ劇場を建設する。
しかし、スーザンの大根ぶりは半端ではなかった。それでもただひとり彼女に拍手をし続けるケーンの異様な姿。
しかもケーンは、スーザンがもう舞台に立つのをやめたいと少しでも言い出すと、突如、理解不能なまでに烈火のように怒り出す。
それはまるで、ケーンの胸の中の巨大な水晶の玉が砕け散り、スーザンの体中に突き刺さる衝撃を、わけもわからないままひたすら耐え忍ぶしかないような衝撃となる。
この衝撃が繰り返されるたびに、スーザンの身体には、少なくとも軽度のPTSD水準と言っていいトラウマが、降り積もるように蓄積される。
このこと自体、今日の概念で言えば、「モラルハラストメント」そのものなのだ。
Q&A モラル・ハラスメント―弁護士とカウンセラーが答える見えないDVとの決別
だが、それは、ケーンの「滑稽なものではあるが献身的な深い愛情」という形で、幾重にもオブラートに包まれてしか、周囲の人間には感知されない。
でも、スーザンは内心思っていたはずだ。
自分は、「完璧な天使」として彼の思うがままに改造されることに甘んじるか、さもなくは、全く無価値な、それこそ肉体交渉のあとのティッシュみたいな無価値・・・いや「無」そのものとして突如さらりとゴミ箱に入れられてしまうかの、二者択一を突きつけられている!!
こんなザナドゥの地獄に幽閉されるくらいなら、夫に、財産目当てのファム・ファタールとして罵(ののし)られる方が、百倍幸せだとすら、彼女は感じていたかも。
人は、「相手にとっての善」か、「相手にとっての悪」かの振幅にはまだしも耐えられる。
しかし、
「相手にとってのすべて」か、それとも「相手にとっての無意味」か・・・・の振幅には耐えられない。
後者のような対人関係様式しか相手に提示できない人のことを、真の意味での「ナルシスト」(自己愛人格障害)と呼ぶ。
つまり、ケーンこそ、映画の中で描かれた、史上もっとも強烈な自己愛パーソナリティなのだ。
そこには、「自分にとっての完璧な操り人形」か、雨の中に打ち廃(すて)られた、もはや省みることもない「廃棄物」という形でしか、パーソナルな人間関係を結べない人間の、ほんとうに底知れない孤独の世界が口を開けている。
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(↑今の部分を書いていて、思わずayuの"marionette"のビジュアルを連想したので。)
ケーンにとっての、唯一例外的な、この世における人との絆として信頼できる「移行対象」(ライナスの毛布)、それが、生みの親のもとでの少年時代の遥かな記憶を今につなぐ、「ばらのつぼみ」だった。
しかし、その「ばらのつぼみ」という宝物は、誰にもそのパーソナルな価値を再発見されることなく、まさにただの燃えるゴミになってしまうのである。
こうして、映画の物語をみる観衆(の中の、孤独なナルシシズムへの免疫を幸いにして形成でき、しかも、柔らかい皮膚と心の産ぶ毛を失わないまま「サバイバル」できた、幸いなる人たち)にのみ、亡きケーンの体感していた空しさの核心は共有され、癒されて、この映画は終わるのだ。
*****
ここまで書けば、「マイ・フェア・レディ」のコックニー訛りの花売り娘イライザをレディにしようとしたヒギンズ教授のダークサイドがケーンであることを、これ以上説明しなくてもいいでしょ?
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» 臨床心理士のためのさわやかで明るいメンヘルサイトをめざします? [臨床心理士みちるの午后]
なんかのっけから、アグレッションのかたまりの、威勢のいいお姉様(*⌒∇⌒*)が、自称メンヘルサイトをはじめたもんだと思われてるじゃないかと思う (o^-')b
やっぱり自分からコクってないと読者の皆さんに失礼だからお書きします。
私... [続きを読む]
» ジェームス・F. マスターソン著:「自己愛と境界例」 [カウンセラーこういちろうの書評・DVD・CD評ブログ]
nbsp;境界例のナルシシズム=マーラーの分離個体化理論でいう、「練習期」を経て、「再接近期危機」に直面しつつも「見捨てられ不安」未克服=「矮小な自己像」
への防衛としての「誇大自己」であるに過ぎない。
ほんとうの「自己愛人格障害」のナルシシズム=マーラーの分離個体化理論でいう「練習期」のまま、つまり「幼児的万能感」のままで大人になってい
る(親もたいてい自己愛人格障害者な)ので、実は自己中心的で他者に対する感情移入能力を欠き(この点ではDSMの診断基準は正しい)、自分を「崇拝」... [続きを読む]
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