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2007/11/20

アメリカの作曲家、サミュエル・バーバーのこと(第2版)

 バーバー(Barber)と言っても理髪店ではない。1910年から1981年まで生きた、アメリカの作曲家である。

 日本では、本来、3楽章からなるエマーソン弦楽四重奏団 - Ives & Barber: String Quartets - Adagio for Strings, Op. 11: II. Molto adagio「弦楽四重奏曲」の第2楽章として書かれたものを、オーケストラの弦楽用に自身が編曲した「弦楽のためのアダージョ」のみが突出して知られている。

 この、「バーバーのアダージョ」は、映画「プラトーン」(オリバー・ストーン監督)で使われたことによって、クラシックファンのみならず、多くの人にポピュラーなものになった。そしてクラシックの名曲集的なCDの定番収録曲になった。

 しかし、アメリカ以外では、この作曲家に注目する人が少なく、日本でも入手が容易なナクソスレーベルにまとまった「管弦楽曲集(交響曲・協奏曲なども含む)があるのを除くと、Amazonですら、入手可能なCDはかなり限定される。まして、バーバーのみで一枚まとめたCDとなるとほんの限られた範囲でしか入手できない。

 そうした中で、Amazonですら手に入らないバーバーのCDを、私は数年前、フォーカシング国際会議でカナダに行った時に、帰り道のトロント・ピアソン空港の売店で衝動買いしていた。

Bestofbarber"The Best of Barber"(米Terac CD80632 HMW Japan一般価格¥1,565)

 このアルバムは、たいへん選曲が優れている。

 弦楽合奏版の「弦楽のためのアダージョ」を冒頭に置く。

 そして、クラシック通には知られている、特に第2主題から経過句にかけてのからみつくようなチャーミングさが親しみやすい、Detroit Symphony Orchestra & Neeme J?rvi - Barber: Symphonies Nos. 1 and 2, The School for Scandal Overture & Adagio for Strings - The School for Scandal, Op. 5: Overture演奏会用序曲「悪口学校」。アイルランド出身のリチャード・ブリンズリー・シェリダンの喜劇に基づく。

 原題は("The School for Schandal"なので、「スキャンダルの学校」の方がいいかも? 

 イギリスでは、シェイクスピアに次いで上演回数の多い著名な喜劇とのことで、内容のクオリティは大変に高い、上流社会の風刺劇のようだ。これ以上戯曲についての解説は読めないままでの推測だけど、曲想は決して皮肉や辛らつなウィットやあてこすりを連想させるものではない。むしろ「反骨の恋のスキャンダル」みたいな空気を何となく感じる。

 松田 弘子さんによる上演日記をつづったサイトで、ティーズル令夫人という16歳の少女の役について「松浦亜弥みたいな声で」と、演出家から指示が出たとある。

 「そうあの方(老婦人)、お酢と水割の牛乳だけで生きてるんですのよ、馬に引っ張らせてコルセットの紐をおしめになって。こないだ、その馬が暴れて止まらなくなっちゃって、ハイド・パークまで引きずられてあやうく胴がちぎれて死にかけるところだったんですって」(わたなべなおこ版戯曲による)。

 この曲の固有の美しいメロディーにはこの少女のイメージが重ねられているのか??? もっとも原作の岩波文庫版(再販未定)があるので、シェイクスピアは好きな私も、今度そっちも読んでみようかと思う。いずれこの件は補足したい。

 さて、さっきのCDの紹介の続き。

 このCDでは、更に、かなり著名なバイオリン協奏曲ピアノ協奏曲の特定の章、オーケストラつき歌曲を経て、「アダージョ」にラテン語のミサ曲の詞をつけたHarry Christophers & The Sixteen - Barber: Agnus Dei - An American Collection - Agnus Dei合唱曲「アニュス・デイ(神の子羊)」という、珍しい曲で終わる。

 CDの構成は実に優れており、バーバーの全体像のコンパクトな入門の一枚として、これ以上のCDはないだろう。演奏者も、スラットキン/セントルイス響をはじめとして一流で、録音もテラークらしい、潤いに満ちた生々しさがある。

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 一方、Samuel BarberiTunesで手に入るのは、このCDとはほとんど重複しない、限られた曲だが、Barberpianosonataetcピアノ・ソナタ(これは珍しく2種類登録されているが、John Browningの方をお薦め)やチェロ・ソナタ(この曲はブラームスっぽい)など、室内楽・器楽系が多いので、先ほどのCDを補完する「衝動聴き」にはもってこいである。

 自身、コンサートにはほとんど立たなかったが、ピアニスト・バリトン歌手でもあったことから、管弦楽曲のみならず、ピアノ曲・歌曲の分野にも佳作が多い(歌曲はiTunesにはないが)。

******

 彼の曲は、ある意味ではかなり保守的ともいえるが、非常に透明でウェットな、しみじみとした曲が多く、私にとっては、同世代のアメリカの作曲家、コープランドやアイヴズよりははるかに身近である。意外と、ラヴェルの響きに近いと感じるが、大曲はもっと構成的で、ドイツ的伝統に根ざしているが、決して晦渋にならない。

 特に、アメリカの作曲家は苦手、という方にこそ、おすすめ。

 なお、ピアノソナタに関しては、先述のBrowningの演奏の方が個人的には好みだが、「ピアノ独奏曲集(Piano Solo Music)」と題した、ナクソス・レーベルのDaniel Pollack - Barber: Complete Published Solo Piano MusicDaniel Pollack盤も、なかなか聴いていて癒される小品がたくさん入っていて、お薦めである。

 これから、海外廉価盤で出ている交響曲、協奏曲も全曲聴いてみるつもりである。購入はHWM Japanサイトが一番幅広く対応しているようである。

HMVジャパン

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