序章:めぐり会うまで -中島みゆき「夜会 Vol.13 24時着 0時発」(1)-(第2版)
実は私の中島みゆきファンとしてのキャリアには大きなブランクがある。
「時代」は発表当時から知っていたし、ファーストアルバム
「私の声が聞こえますか」(このアルバムについての拙論はこちら)から、
「予感」までは、アルバムによっては少し時間をさかのぼりながらであるが、LP時代に「同時代的に」親しんでいる。
ところが、
アルバム「はじめまして」を聴いた段階で、デジタル録音をアナログ盤で聴くという形になったことが災いして、音がたいへん硬いものに感じられたのがきっかけだと思う。一度関心が離れてしまうのだ。アナログ録音の最後の2枚、
「寒水魚」と「予感」が、アナログ録音の秀作で、カートリッジをおごっていくと、絶妙なまでに香り立つ繊細さと、ベースやドラムスの鋭くて重量感のあるインパクトが共存する名録音だったのである。この2枚のアナログ録音への愛着が、その後のみゆきへのこだわりそのものを断ち切ってしまったのである。
(一方、今から振り返れば、初期のCDプレーヤーは何とも音か硬くて荒れて聴こえたものだ。これは、アナログプレーヤとCDプレーヤー以外のオーディオ機器そのものが、このアナログからデジタルへの変換に伴う音作りの抜本的な変更に追従しきれていなかったためだろう。今では、いわゆるシスコンのCDの音ですら、当時の単体製品のコンポーネント(合計価格は今のシスコンの10倍近くだったろう)よりはずっと「バランスよく」は聴こえる)
もっとも、「はじめまして」は、みゆきにおける作風の転換を明らかに示し始めたアルバムで、当時の私の感性が、それについて行けなかったためとも思える。このアルバム前後から、後のみゆきが「ご狂乱の時代」と自ら振り返る転換期に入ったと知ったのは最近のことである。
私は、
「空と君のあいだに」、の大ヒットすら、曲そのものは何かの機会に耳に入ってもそれ以上の関心を持たなかった。
私の中でのみゆきへの関心の復活は、NHKの
「プロジェクトX」の開始である。私は、この番組の最初からいきなり「番組全体への」ファンになったひとりである。その証拠としての、この番組開始一ヶ月後の段階での、某メーリングリストの書き込みがある。
NHKの火曜21:15の「プロジェクトX」は毎週ホント楽しみにしてます。どこか「戦後しばらくの日本人にはこんなに素晴らしい気骨ある人たちがいたんだよ! 私たちも頑張ろう!」と高度成長期を懐かしむようなノリがありますけども、ともかく何かで賞をとってしかるべきと思うくらいに毎週の粒が揃い、元気が出る番組です。コンセプトとフォーマットの勝利と感じます。これに比べると同じ時間帯の水曜の歴史物は、何か生ぬるく、以前の同じ時間帯の歴史番組よりかなり微温的と思っています。
([focusing-net: 1660] Thu, 12 Oct 2000 23:36:16 +0900より転載)
番組放送開始が2000年4月ですから、半年後に書いているということになりますね。まだこの番組について大ブーム化するよりは前です。
*****
みゆきの
「地上の星」、
「ヘッドライト・テールライト」もテレビで聴いた段階ですぐに好きになった。そして
"Singles 2000"で近年のみゆきの代表曲に接した段階で、みゆきが現在たどり着いている境地の深みに圧倒されることになる。特に
「瞬きもせず」に鳥肌が立った。
こうして、私は、その途中の十数年というブランクを、徐々に埋め始めることになる。曲はすでにすべてて手元にあるが、丁寧に聴きなおす段階に至っていないアルバムも実は多いままである。
(みゆきにしても、浜崎あゆみにしても、アルバムそのものを「ひとつの統合的な『作品』として聴いた時にはじめて感じられる持ち味が実に明晰にある。埋め草のような意識でシングル発売曲以外を「寄せ集めて」作っているに留まるケースは皆無である。私はそれこそ交響曲やソナタの各楽章を聴いて行くような意識で二人のアルバムに接する)
****
最近のみゆきのオリジナルアルバムでは、まず最初に
「恋文」が全体としてしっくりくるアルバムとなった。続いて、「はじめまして」の再発見、その後で
「歌でしか言えない」、「転生」という順になる。
既に一度この時の記事で、敢えて暗示的に示唆したけど(^^;)、
アルバム『転生』が、宮沢賢治の
「銀河鉄道の夜」へのみゆきなりのオマージュというコンセプトを鮮明に持っていることは、「銀河鉄道の夜」を溺愛する人なら、一聴してわかることのはずだ。そしてそれが表面的な借り物などでは決してないことも。
「命のリレー」一曲取り出しても、宮沢賢治の世界観へみゆきの深いシンパシー、みゆき自身の世界観との「高次元での共振作用」がなくては生まれない曲である。
****
ところがどっこいぎっちょんちょん、私のみゆきへの十数年のブランクは、最近のみゆきのファンなら「当然の常識」すら知らないままでいる状態を生み出していた。つまり、私は、『ダ・ヴィンチ』2007年1月号でのみゆきへのロングインタビューを読むまで、アルバム「転生」が、そもそも、みゆきの、ミュージカルともコンサートともつかない特異なライブ、「夜会」のVol.13、「午後24時着 0時発」のCDアルバム版であるということそのものに「気がつかないままでいた」のである!!
「夜会」については、数年前にNHKBS2で放送されたドキュメンタリーで、その特異な舞台世界に気づかされてはいた。でも、「夜会」の各回がどういう内容かについては全然情報収集しないままだったのである。「夜会」のDVDの全容まで体験して堪能するとなると、とても今の私の時間と資金力(^^;)では消化しきれないので、全面的に先送り、と、かなり前から決断していたのである。
ところが、「ダ・ヴィンチ」のみゆきのインタビューでその事実を知ってしまったらどうにもならない。小説が苦手な私にとって、宮沢賢治の童話集は、すでに中学時代から、例外的な溺愛の対象だったのである。アルバム「転生」にも十分なじみ、聴き込むうちに「命のリレー」以上に
「サーモン・ダンス」にぞっこんになってきていた私にとって、これは中古市場で探して、ダイエットの励みにしてでも(爆)入手せずにはおられなくなったわけである。
その結果、私は、
「そうか、あの曲が『こう』使われていたのか!!」
ということに、たいへん新鮮な感動を覚えつつ、このDVDを堪能できた。
歌詞の字幕OFFのままでも、いきなりDVDと一緒に口ずさめるのが嬉しかったりして。
「夜会」のストーリーを全く知らなくても、アルバム「転生」には自立した音楽的な深さがある。
「情婦の証言」(これのみアルバム「恋文」の方に収録)や
「ミラージュ・ホテル」、
「無限・軌道」そして何より「サーモン・ダンス」は,アルバムの中ですら、見事なイマジネーションを喚起する名曲なのだ。
その「アルバムだけで」喚起できるイマジネーション深い味わいから予想できる期待を、「夜会 Vol.13 24時着 0時発」は全く裏切らなかった。そして、そこでのみゆきの存在感ある演技と歌唱に圧倒された。何より、お気に入りになっていた「サーモン・ダンス」が、ああいうふうに歌われ、演じられるようになって「いた」ということを体験できたのは、知らなかったがゆえにこそ、何とも感慨深いものがあったのである。
*****
この連載(!)、次回は、この「24時着 0時発」を、ひとつの演劇作品としてとらえ、この作品の背景になっているみゆきの思想と、その背景についても迫る内容にしたい。
(同時連載何本抱えるんだと思われそうですが、こういうやり方の方が、今の私の場合には、発想の「促成栽培」にならず、内容の密度を上げられるということに、最近の私は確信が出て来ましたので。以前とは異なり、ちゃんと続きは遠からず書かれます。)
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