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2006/08/03

カウンセリングの開始とは、実は、クライエントさんの最初の「行動化」である

 私が、この記事の後半や、この記事で、「事例検討会」や「事例研究発表」、「スーパービジョン」というものについて、たいへん手厳しい発言を繰り返していることに、この記事をお読みの、特に経験の浅い、若い臨床家の読者の皆様に大きな困惑と混乱をもたらしている可能性があるかと思います。

 (例によって、これは私の「シミュレーション」ですよ。私は正直にいって、他の方のブログ等を読む時間を今やほとんど全く持ち合わせていません。申し訳ありませんが)。

 事例発表という行為そのものが、治療者自身の「行動化(acting out)」のリスクを負っている、とまでいわれると、これから「業績作り」をしながら、職歴をステップアップする必要に迫られている若い臨床家の方は、そりゃ、むっちゃくっちゃ困惑されることでしょう(^^;)。

 「行動化(acting out)」とは、クライエントさんが、本来治療者との面接の関係「の中で」「内面を見つめながら」解決すべき事柄を、その「枠」を壊して行動して解決しようとすること全般を指します....という言い方をすると、たいていのカウンセラーの方と共通理解が得られるでしょう。

 でも、実は結構曖昧な使い方がされている概念です。例えば、カウンセラーに何も告げないまま他のカウンセラーに相談に行くこと、面接の予約時間を破ること、カウンセラーを異性として好きになり、無理矢理抱きついたり、カウンセラーの帰宅時に「あとをつけていく」などのストーカー行為に走ったり(この問題の深刻さは、あまり表立って議論されていない領域です)、オーバードーズやリストカットなどの自殺企図、「転移」の問題に直面した時、衝動的な性的逸脱行為や飲酒に走ることなど、みんな「行動化」=「よくないこと」とされているのですが、どうも、それらを「クライエントさん側の自我が弱いために引き起こされた、本来好ましくない、カウンセラーにとって迷惑な行動」と位置づけ、「行動化」を起こすクライエントさんはそれだけ病理が深く、手におえない「厄介な」クライエントさんだと位置づけるに留まることが多いのです。

 しかし、それを言い出すのなら、カウンセラー自身がアルコール中毒といわれかねない深酒をしていたり、衝動的で不安定な異性関係を繰り返す癖があったりしたって、カウンセラーの「行動化」でしょ? と私ならいいたくなります。

 クライエントさんが次々とカウンセラーや治療者を渡り歩くこと(セラピスト・ショッピング)が「行動化」というのなら、カウンセラーが次々といろんなカウンセラーにアドバイスを求め、面接の内容までぶちおまけて相談するのも、「ワークショップ・ショッピング」を重ねるのも、見事な「カウンセラーの」行動化ではありませんか!!

 中井久夫先生が看護のための精神医学第2版「看護のための精神医学」等で、クライエントさんのその種の「セラピスト・ショッピング」を「よくない事態」と考えることそのものに敢えて異議を唱え

 「そうやって、幾人もの治療者を渡り歩く中で、患者さんの病理は次第に『弱毒化』されていることが多い」

 という画期的な発言をして、治療者としての自分は、そのクライエントさんの巡回する、たくさんある『寄港地』に一つに過ぎない、くらいのスタンスでいればいいかのごとく示唆しているわけです。つまり、「クライエントさんが行動化を引き起こす責任をカウンセラー側の責任として『抱え込み』過ぎることにも警告を発しているわけですね。

 ただ、今度は、この「行動化の傾向が強いクライエントさんとの面接過程」について、担当カウンセラーが他のスタッフやスーパーバイザーや上司に相談せず、「ケースを『抱え込む』のみになるのはよくない」ということ自体が「カウンセラー教」のドグマになっている。

   中井先生が示唆しているのは、

   「抱え込まずに事例検討会に出せ
   ということではなく

  「クライエントさんがあちこちの治療者を
   渡り歩くのを適当に放置しておき、
   舞い戻ってきたら、相手をするくらいの
   スタンスでいいんだよ」

ということなのである!!

.....ってことは、セラピスト側が、いろんな流派のいろんなセミナーやワークショップ、スーパーバイザーを「渡り歩く」という「行動化」に走ることも、中井先生は許しておられるとみていいでしょう(^^;;;;;;)

 ある観点から見れば、カウンセリングを受けようか迷っている一般の皆様が、

 「問題を自分とその対人関係の当事者の間で解決できる『べき』なのに、カウンセラーのもとに通って、親兄弟や妻や恋人や上司や同僚のプライバシーまで暴露するのはよくないことではないか」

.....と悩み抜き、カウンセリングの門をたたくかたたかないかを、時には何年も躊躇し続ける一般の皆様の心情きわめて健康的なものであり(!)、カウンセラーなんぞに相談することを、ここでいう「行動化」にあたると感じていても、全く当然なんですね!!

 カウンセリングの開始とは、実は、クライエントさんの最初の「行動化」であるという視点に立てば、「行動化」というものへのカウンセラーの視点が柔軟になると思うのですが。

*****

 ちなみに、中井久夫先生、河合隼雄先生、神田橋條治先生、ユングなどといった先達の諸先生方が、自分自身の事例の公表を、少なくとも中年期以降、全く控えておられることは、業界では有名ですよね。ほんとうは、これらの「大先生」でなくても、その治療者がある程度業界に名前が有名になり出したら、事例公表には慎重になるのが的確なのではないかと思います。

そして、実は「無名な」治療者でも、実は共通する問題を抱えているのではないかと。

 クライエントさんご本人の許可を得たとか、終結後数年を経た事例であるかどうかなんて、実は全く表面的な「手続き」問題として処理されがちで、「カウンセラーの責任回避」にクライエントさんを「巻き込む」リスクを犯している面もあることへの配慮が欠けていることが少なくないのではないかとすら思いますよ。

以下、第2回に続きます。

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コメント

「スーパーバイザーとカウンセラーの関係は、カウンセラーとクライエントさんの関係の「写像」となる?(1)」というタイトルだけ、新たな形に変更させていただく、という、私にとっても異例な処置に出ました。

 ここまでに描いたこの記事の内容には、今度の新タイトルがふさわしいと思います。

 どうみても、この記事の内容は、「行動化」という概念の従来の一般的理解そのものへの「革命」を意図したものであり、しかもそれが私の独創でも何でもなく、中井久夫先生が、中井久夫著作集に収録されている、「相当前の『某論文』」でお書きになっていることをアイデアにしてふくらましたものに過ぎないわけです。

 中井先生がその論文で書かれた「大逆説」の真意は、「素直に読解すれば」誰でも気づけるはずなのに、少なからぬ治療者がまだ気がついていないのではないか、ということに「あきれ果てた」私が、それなら私が噛み砕いて紹介しよう、ということを意図したものですから。

 今後予定している、この記事の続編のタイトルとして、旧タイトルは「仮タイトル」として温存します。

 読者の皆様には混乱を招き、申し訳ありません。
 

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