投薬の全面的見直しの際に注意すること -NHKスペシャル 「うつ病治療 常識が変わる」への感想(4)- [第5版]
さて、前回に引き続き連載第4回め、佳境に入ってまいりました(^^)
(繰り返しますが、今受けている欝の治療に十分成果を感じている皆様を不安に陥れることは私の本意ではありません。どうかお許しください)
すでにこれまで書いてきましたとおり、このNHKスペシャルの中では、
1.あまりに多種類の投薬を受けていることが多いために、何が効いているのか、何が副作用なのか、ほんとうに有能な医師でもわからなくなっていることに由来する、うつ病治療の長期化・遷延化・むしろ悪化。
2.特に単極性うつ病と双極性II型の鑑別診断と、実は「まったく別」と言っていい適切な投薬(気分安定剤を処方するかどうか)ができる医師の不足により、欝の波にはまるたびに症状の長期化と症状の悪化が生じる悪循環にはまっていることが疑われるケースが多いこと
.......この2つの理由で、医師の指導の下でそれまでの薬物処方をいったんすべてやめてしまった上で、投薬の見直しをしていく必要がある、ということが番組の中で描かれていきます。
【第5版で追加】
(ここでは「双極性II型」を中心に取り上げていますが、「急性交代型」や「気分変調症」、「双極スペクトラム障害」などが疑われる場合にも、確定診断が難しく、投薬の方針を大きく変える必要がある場合があります。)
【ここまで、第5版で追加】
こうした投薬の全面的見直しの結果、それまで10年間欝に苦しんでいた患者さんが、数ヶ月で明らかに軽快の方向に向かう実例すら、この番組では取り上げられています。
*****
さて、ここからが、この番組の欠点、描き方不足と私に感じられた点の指摘に入ります。
実は、この番組で取り上げられた、そうした「薬の抜本見直しのため、薬の服用を一度すべてやめてしまう」という医師の判断が描かれている事例3つのうち2つまでが、薬をやめて経過を見る段階で、むしろ断薬の結果、患者さんに、むしろ感情が激しく乱れる時期や、生活に支障が出る身体面に及ぶ様々な症状が出る時期を迎え、その段階で入院治療に切り替えるという対策を早急に医師がとった(あるいは入院態勢があることが十分インフォームド・コンセントされていた)事例であるということです。
そうでないかにみえるもうひとつの事例(スタジオ出演された、中年の女性の方の例)は、恐らく、患者さんがすでにずっと自宅静養を続けていて、更に、ご家族が介護に全力を尽くされていることによって、緊急対応が容易であったため、入院の時期を必要としなかったのではないかと推測できます。
更にいえば、恐らく、こうした断薬→くすりの見直しを始める前に、断薬のしばらく後に、そうやって入院を含む緊急対応が必要な可能性があるくらいに心身が混乱する時期があることについて、医師の方から患者さんとご家族にくわしくインフォームド・コンセントがなされ、患者さんも同意していることもほぼ間違いないのですが、そういうシーンは残念ながら描かれていません(私の元クライエントさんから、実際にインフォームド・コンセントが事前に丁寧になされていたので、こうした処方への不安が軽減されたという経験をうかがいました)
【第5版で追加】
この件に関連して、この番組に取材出演された患者さんのうちのおひとり(男性の、ベッドで横になっておられた方です)から直接メールをいただきました。お医者様から、実際に、丁寧にインフォームドコンセントを頂き、入院についても説明を受けていたとのことでした。なお、この方の診断は「双極スペクトラム障害でないか」とお医者様から言われているとのことでした。
詳細な情報をいただけましたことに、ネットへの掲載も、ご本人の方から事前に許諾を申し出て下さった上で以上のことを伝えてくださいました。心から感謝申し上げます(09/06/15)。
【ここまで、第5版で追加】
つまり、この番組がその点にまで踏み込まないままだと、テレビを見た患者さんの中に、医師の了解も得ず、自分だけの判断でそれまでのくすりをすべてやめてしまった上で、はじめて新たな医療にかかろうと判断してしまう方がたくさん出てくる可能性もあるという気がします、
断薬後の心身の変調は、場合によっては断薬後しばらくはむしろ快調そのものの時期を経た上で、突然思いもよらない症状として生じることもあります。そうした「急転直下」の可能性まで、事前にインフォームド・コンセントができるのが、こうした対処のスキルを磨いた信頼できるお医者さんです。
どうして新たな薬にすぐに一気に切り替えないかというと、以前の飲んでいた薬の成分が身体から抜けてしまうまで、あるいは、そのくすりによって生じていた心身の状態が元に戻るまで、薬によっては2週間ほどかかるのが普通だからです。抜いた後、「まずは薬の副作用の軽減の実感が最初に生じ、その後ではじめて薬が効いていたから安定していた側面が顕わになることも多いのです)そして、そうやって薬が十分に抜けた状態での心身の状態を丁寧に診ることをしないと、新たな薬の処方を最終的に決めることがお医者さんにもできないからです。
*****
[ここから第4版で追加]
では、単極性鬱病と誤診され、
「本来双極型II型の診断が正しいはずなのに、気分調整薬が処方されず、もっぱら抗うつ薬のみ処方された結果としての、薬物副作用・相互作用の累積が原因と推測される、慢性的なうつ病的症候群」=DSMでいう「物質誘発性障害」として生じた気分変調が、間違った薬物投与の長期化の中で慢性化して、「あたかも最初から、実は双極性障害2型であったかのように見えてしまう」
という、実は「医源病」の解消のために、例えば入院対応の施設のない開業クリニックにおいて十分な対応ができるかという、皆様が関心を抱かれるであろうテーマについて。
もちろん、個人差が大きいことです。特に危険度が高い人の場合にはお医者さんも慎重にしてくださるでしょう。
しかし、それまでの単極性鬱病という誤診とその後の投薬経過のの個人史において、
1.多剤処方と副作用体験が著しく累積しているわけではなく、比較的シンプルな処方、限定的な範囲での副作用にとどまっていた人。
2.特に肝臓をはじめとする血液検査領域で著しい障害が発見されないこと。
3.休職中、あるいはそれに順ずる自宅静養状態にあり、本人の体調も気遣う家族が身近にいること
などといった条件が満たされている場合には、抗うつ薬の断薬にかける期間を最小限(例えば2週間)にして、その一方で並行して気分調整薬を徐々に増量しはじめることをスタートするという治療方針を、慎重にインフォームドコンセントをした上でお取りになるお医者様も少なくないようです。
この場合、いざとなればいつでもそこから数日休養することを開始できるくらいの体制をあらかじめ準備しておいた方がいい気がします。
恐らく、生活の中で突如、めまいやふらつき、悪心、意識障害、気を失うこと、平衡感覚喪失、動悸、過呼吸など、これだけ取り出したら、パニック発作に近いものと「誤診」される危険がある症状がが突如襲いかかることを一番警戒すべきかもしれません。
更に、それを事情を知らない別の救急担当医がマジにパニック障害の発症などとのみ診断して「対症療法」だけを始めそうな予感もします。
私自身がうつ経験があり、ありかちなSSRIの単調な処方から気分安定剤への処方変更を経て、今日の回復に至れた当事者です。脅すつもりはありませんが、そうした処方変更をした直後の時・・・・恐らく気分調整剤が血液成分中で「臨界期に達する」頃と思いますが、夜横になっていると、ある晩、ほとんど急性精神病状態の時と同じような幻覚や幻臭・幻聴を伴う、変性意識状態での悶絶を体験しました。
カウンセラーとしての研修過程で勉強はしていた、統合失調症急性発症時とかなり類似した体験を、むしろ「セロトニンにやや依存し過ぎ症候群」から脱することと引き換えに「薬理作用的・限定的に疑似体験」したように思います。一種の急性の「知覚過敏」現象だったのでしょう。私自身が専門家でしたから、冷静に「やむをえない一時的現象」と信じてやり過ごすことができましたが。
恐らく人によっては、この状態をしのぐためだけに、仮入院して、医師からのジフレキサやリスパダールのそこそこ量の緊急投与すら必須だったでしょう(気分安定剤とのあわせ技は有効らしい)。たいていのケースなら、入院してもベッドで静穏に寝ている中でそういうエピソードが通り過ぎるのを静かにしのぐくらいで経過を見るのかな???
[ここまで第4版で追加]
(......ということまで、事前にきちんとインフォームド・コンセントとして単に説明するばかりか、その説明によって患者さんの不安を実際に軽減できるところまでできてはじめてこうした対処を患者さんが信頼してもいい医師である可能性が高いということになります。こうした話になるとあやふやになる医師は、こうした治療を頭で知っていても、様々な事例で成功をおさめた経験に乏しい可能性があるわけですね。)
*****
【以下、第2版で追加】
●参考サイト:
気分調整剤(気分スタビライザー) サイト「ルボックス[デプロメール]を使いこなす」(オリジナルは笠陽一郎医師のページの「薬箱」)
この記事で見る限り、現在認可されている気分調整剤は、どちらかというと抗躁剤としての処方がまずは確立されたものが多いとのこと。鬱傾向と不眠がある人の場合にはデパケン、鬱主体で元気がない人にはリーマスが向いているとのこと。抗鬱剤と気分調整剤の併用は避けた方がいいとのこと。
私が聴いた範囲では、気分調整剤は当初緊張性頭痛や眠気の上昇、気分の悪さなどみられるが、これは一時的で、急にSSRIをやめて切り替えると、SSRI中心の時の、もっぱら気分の重たい落ち込みが強く出る人と、気持ちの波そのものは静まるけれども、躁鬱の人が抗うつ剤だけを飲んだ時に独特の、躁にせよ鬱にせよ、独特のねっとり感(パキシル)あるいはさらりとした潤い感(ジェイゾロフト)のある、気分や体調の不安定な揺れの感覚の代わりに、気分的には安定しているけれども、決して10の力は出せず、7か8ぐらいでの安定をコンスタントに維持することは、抗うつ薬の頃よりはるかに無理なくできるが、ある意味では単調で、人生のドラマが消えてしまうかのような体験になることが少なくないようである。
問題は、まさにこの、「安定しているが、人生からスリルとサスペンスが消えてしまったかのような感覚」にとどまれなくなる人も出てきてしまうことかと思う。
もっとも、恐らくこの点では個人差が大きいだろう。鬱の波がほとんど軽躁のほうにまでは振れない人で、地道にこつこつひとつのことを頑張る側面がもともと強かった人だと、この、
「以前とはテイストが違うけれども安定した状態」
を、
「肩の力が抜け、余計な力みがなくなり、状況全体を俯瞰した上で、クールで大人の対応ができる自分へと一皮向けて行ける」興味深いチャンスが自分に与えられた
........ととらえなおすことが比較的無理なくできるかもしれない。
これに対して、ギャンブルや酒などへの嗜好があったり、自分の中に、公私問わず、物事の解決や成功のための「勝利の方程式」をある程度見出せているという自己信頼がない人だと、気分調整剤を飲み続けるモチベーションを維持する上での困難も大きく、維持療法に入る以前の段階では、薬物療法的にも、医師の高度な処方テクニックが必要となるのではないかと思う。
今後、ラモトリジンという、むしろ抗鬱作用が強い薬が気分安定薬としても日本で認証される可能性はあるそうですが、まだ現状は、その一段階前、抗てんかん薬としての治験の段階とのことです。


↑同じ患者さんが同じ時期に一気に5つの病院を受診した結果、病院によって、これだけいろいろな量と種類の薬の処方をされた!!

↑そのことについて、NHKの取材を受け、慎重に言葉を選びながら返事をする、厚生労働省の技官(^^;)
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