認知行動療法について -NHKスペシャル 「うつ病治療 常識が変わる」への感想(6 一応の最終回)-[第5版]
さて、いよいよこの連載、前回に引き続き、このエントリーで最終回です。
前回で紹介した、「非定型うつ病」の現在の診断基準と、その具体的治療法については、実に様々なサイトですでに詳しく言及されておりますので、そうしたサイトをご覧になる読者のご判断にお任せいたします。
*****
でも、「非定型うつ病の人は、認知行動療法によってアサーティブさ(自己主張能力)を身につけることが必要」
という意見を読むと、
「日本人は、うつ病に限らないこととして、むしろ心理療法全般を受けることによって自己主張能力を身につけたおかげで、周囲との摩擦に耐え、孤高の道を歩む苦しみを感じているんじゃないか」
とも思うし、その一方、
「今の若い世代は、生きる糧を得るために働くという経験に乏しく、自己主張的になっているので(!)、昔の人のように、典型的(=DSM-IVで、過去の遺物から突如復活(^^;)した、「メランコリー型」)うつ病になれなくなっている」
という全く正反対の記事を読むと、
「ああ、オヤジの『今の若い者は』のバリエーションに過ぎなくなってる。要するに、古典的うつ病の人のほうが従順で、扱いやすかったという医者本位の愚痴なんじゃない?」
と感じてため息をつくのは、私だけではないと思います。
繰り返します。DSM-IVでの診断基準に適う意味での「非定型うつ病」と同じ病態の人は、昔も今もたくさんいただけです....と。
******
さて、いよいよ、番組後半で取り上げられた「認知行動療法」に関してですが。
認知行動療法についても、この番組に関する、しないにかかわらず、様々なサイトを見ていくと、バランスのいい記事が結構見受けられます(お医者さんによるもの、実際認知行動療法を受けた人の体験談etc.)。
例えば、
● うつ病治療 常識が変わる NHKスペシャル (by茅野 分 コラム - All About プロファイル)
は、手短ですけど、お読みになる皆さんをたいへん安心させる、お医者様のコメントですね(お医者様による番組全体の紹介記事としても、簡潔で、しかし、専門的な勘所にしっかり触れてくださっているコラムになっています)。
【ここから第3版】
ただ、英語ですが、次の記事の存在は是非お知らせしておきます:
●Petition Against Over-Regulation of Psychotherapy(心理療法への過剰規制に反対する嘆願書) (Moving Toyshop)
この記事は、裕さんのサイトの、
というエントリーで紹介されていたものです。
【ここまで第3版】
そこで、多くはそちらにゆずるとして、次の点だけ、開業臨床心理士としての私のスタンスを明言させていただきます。
私は、基本的に、ある特定の心理療法が他の心理療法と比較して優れているかどうかという論の建て方に懐疑的です。
いいカウンセラーにめぐり合えば、それが精神分析でも行動療法でもフォーカシング指向心理療法でも(!)、さらに特定の心理療法を標榜しないカウンセラーのでも、うつ病に関するカウンセリングに関して、的確な見立てと、個々のクライエントさんにふさわしいカウンセリングの進め方、医療の必要性まで、クライエントさんの考えも尊重して、一緒に納得のいく解決を模索していく力があります。
このNHK特集でたっぷりと矢面に立たされたお医者様たちへの公平のために申し上げれば、カウンセラーや臨床心理士の場合にも、専門能力として不十分な場合が「同じくらいにたくさん」見られる点では同じかもしれません。私もまた、多くのクライエントさんに、「未熟なカウンセラー」として記憶に残っていることも少なくないであろうことは十分認識しています。
しかし、それでも敢えて断言します。
標榜する心理療法の流派やアプローチの違いと、「現場」カウンセラーとしての力量とは無関係だと。
むしろ、カウンセラーは、経験を積めば積むほど、
「他の流派のカウンセラーでも、現場臨床的に力量がある人は、根本的なところでは自分と共通のことを自明の前提としてやっている」
ことに気づき、そうした技法についても実際に謙虚に学んでみる姿勢を保てるカウンセラーこそ、実は、その人の標榜する心理療法に限定しても、奥の深い現場臨床での実力を持っているものです。
●参考記事 : 「「オモテ」技法と「ウラ」技法 または収穫逓減の法則(当サイト)
誠に僭越ながら、私が目指しているのも、まさにそのような、他の心理療法や技法に偏見のないカウンセラーに他なりません。
私がそういうカウンセラーにどのくらいなっていて、現場臨床でも有能かを評価するのは、おいでいただくひとりひとりのクライエントさんに他ならないと思います。
それどころか、クライエントさんに限らず、どんな人間同士でも、他人が自分のことを「誤解する権利(!)」が保障されていなければ、それは「支配」を原理とするファシズムであり、むしろお互いに更に理解を深めるきっかけを失ってしまうものだと確信しています。
(もちろん、「理解を深める」なんてしてほしくない、というクライエントさんの訴えがあれば、それも大事にしたいと思っています。自発的に訴えて下さらなくても、「私はこのクライエントさんにすでに踏み込み過ぎ、それを苦痛とのみ感じさせてはいまいか?」という自問自答はいつもして、チェックしているつもりではいます)
クライエントさんからのどんな苦情や不信の念もぶつけてもらえることを、「クライエントさんが心の中でいつまでも抱え込んでいるだけにならずに済んで良かった」と、少なくとも心の中の「一方の自分」は受け止め、仮に、「他方で」、クライエントさんの誤解を解きたい気持ちがどうしてもカウンセラーの中にある場合にも、そのことでクライエントさんとの溝を深めるだけにはならないだけのことができること。
更に、それが単にクライエントさんの「言いなりになる」ことではなく、クライエントさんにほんとうに役立つ援助へと前進するきっかけになるということが、絵に描いた理想ではなく、試行錯誤を重ねつつも、クライエントさんと共に実現に近づけるカウンセラーでありたいと思いながら、ひとりひとりのクライエントさんと毎回お会いしているつもりです。
そして、「どうしてすぐに治してくれないの?」というお話に対しても、一方的な説明にとどまることがないように努めているつもりです。
これを読んだ私のクライエントさんたちへ:
今度お会いした時に、これを機会にこれまで言えなかった本音をいってくださっても歓迎します(^^)
今度ではなくて、もう少し先のいいタイミングで言ってみよう、でも自分の中で決して忘れないではおこう、というのも歓迎です(^^)
*****
更に、私のカウンセリングルームの宣伝めいたことも、もう少しさていただくことをお許しください(^^)
私は、まだまだ不十分かと思いますが、精神分析、行動療法、認知行動療法(まもなくこれに「最新の」臨床動作法が加わる予定です)など、様々な心理療法流派の、現場で一流という評価がある先生方の研修会に参加するように努めてきました。
私の『普段の』カウンセリングをお受けになったクライエントの皆様の中には、私のカウンセリングを、例えば「認知行動療法」っぽいなと感じた方も少なくないようです。
別の方は「まるでユング派みたいだ」とお感じかと思います。
更に別の方は「ゲシュタルト療法みたいだ」とお感じの方もあるようです。
なんだ、普通のロジャース派(来談者中心療法)と何も変わらないではないか、とお感じの方もあるでしょう。
通常の面接の際には、「どこがフォーカシングなのか見当もつかない」とすら言われます。
なのに、フォーカシングを技法として教える教師としては、
「これほど理論や技法に厳格で、実践的な指導を具体的にしてくれるトレーナーにはこれまで会ったことがない。どんなぶしつけな質問をしても答えてくれる」
というご意見と、
「こんな和気あいあいの自由なフォーカシングを学ぶ場を体験したことがない」
というご意見が両方あるのです。
更に、
「私の個性が強過ぎる」
というご批判と、
「ネットの記事から想像していたよりは、よほど控えめな方ですね」
という感想も両方いただきます(^^)
*****
しかし、このように、おいでいただいた皆様によって全然異なる感想をいただけることは、「フォーカシング指向心理療法」本来の性質に、ある意味で厳格に従っている結果だという少なからぬ自負もあります。
「フォーカシング指向心理療法」という著作のなかで、創始者ジェンドリンは次のように繰り返して書いています。
「フォーカシング指向心理療法は、単に技法としてのフォーカシングを面接のさなかに時々部品として差し挟むような次元にとどまるものではない」
「フォーカシング指向心理心理療法は、それがどんな技法的アプローチであるかに関係ないものである。さまざまな技法的なアプローチをそれぞれ別種の「エンジン」だとすれば、フォーカシング指向心理療法はどのエンジンであるかに関係ないで生かせる「エンジンオイル」のようなものだ。
「フォーカシング指向心理療法」の特に下巻は、まさに、そうやってさまさまな流派ややり方にフォーカシングをさりげなく生かすための、ジェンドリンなりのヒント集です。
この下巻の、「認知行動療法的アプローチ」に関する章は、私が特に熟読して来た章のひとつです。
そう遠からず、私なりの、認知行動療法的なフォーカシング指向心理療法の、当カウンセリングルームにおける現場実践についても具体的にお書きすることを、この場でお約束いたします。
【ここから第3版への追加】
私なりの部分的には認知行動療法的といえるアプローチのバリエーションのいくつかの具体は、こちらとこちらで紹介しています。
【ここまで第3版への追加】
もとより、私よりもより優秀な「認知行動療法」本来のセラピストが、皆さんのより身近にもいらっしゃることを、私は心から祈っています。
*****
●謝辞●
この記事を書くために何らかの意味で参照させていただいたサイトは、記事の途中でご紹介したサイトのみならず、非常に多くのサイトです。
しかし、この記事を書くそもそものきっかけとなったのは、Lithiumianさんという方から3ヶ月ほど前にいただいた、私のプライベート・サイトのある記事への厳しいご批判でした。その方から、推薦サイトをいくつかご紹介いただいたことがそもそものきっかけです。Lithiumianさんには、特に篤く御礼申し上げます。
更に、「ブログ論壇」というサイトを運営されている、ともあきさんから、最初は別の記事にいただいたトラックバックの記事の内容にも励まされました。この「精神療法の荒廃」と題するエントリー記事では、このNHKの番組の再放送を含む放映日程が詳しく紹介されているばかりか、この番組についての様々なコメントも掲載され、更に、ともあきさんご自身の認知行動療法体験についても、簡潔に自己レスコメントをされています。
実は、私の方からも、今回の連載が進むたびに、繰り返しトラックバックをともあきさんサイトに差し上げ、ともあきさんからもトラックバックをそのたびごとに返していただきましたが、私の方のトラックバックの欄に見かけ上同じ記事からのトラックバックが並び過ぎてしまいますので(^^;)、私の勝手な判断で、私の方の表示はふたつに集約させていただきました。ともあきさん、どうかお許しください。
更に、これまた少し以前の別の記事にトラックバックをいただきました、このサイトでもすでに具体的にご紹介した、ご自身精神科医である猫山司さんのブログ、「メンタルクリニック.net」の、他の様々な記事もたいへん参考になりました。私の愛読サイトになりました。ありがとうございます。
また、抗うつ薬の処方に関しては、精神科医kyupinさんの、「kyupinの日記 気が向けば更新 (精神科医のブログ)」からも多大な情報を参考にさせていただきました。改めて感謝申し上げます。
*****
最後に、私は福岡県南部(筑後地方)に、私が知らないだけの、十分な診断と薬の処方をしてくださるお医者様が少しでも多いことを信じたいと思っております。
筑後地区の病院のお医者様、あるいはこの地区の病院に通う患者様の中で、ご不快であったり、ご不安を増してしまわれた皆様もあるかと思います。
まだ実際にクレームをいただいた例はございませんが、これからも、不適切な表現が見つかりましたら、できるだけ変更してまいります。
****
そして、何より、これまで私のカウンセリングルームに相談して、話を聞かせてくださったクライエントの皆様にこそ、ほんとうに厚く御礼申し上げます。
この3ヶ月の間、この問題について私なりに猛勉強する中で私の認識が急に変化したことは、もう読者の皆様もお気づきかと思います。
ここに書いたような、恐らくまだ不完全であろう認識すら不十分だった、久留米での開業初期にお会いした皆様、神奈川・大船開業時代のクライエントさんを含めた皆様、「もし現在お会いしていたら、まだ何かお役に立てたのでは?・・・」という後悔の念を禁じ得ないでいます。どうかお許しください。
(この連載、終わり........のはずでしたが、ここから更に「特別編」の連載につながります)
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この記事、久々に、第3版へ更新しました。
それは、認知行動療法の国、イギリスでの現状についての興味深い報告を、裕さんがご自身のサイトで紹介してくださったからです。
英語ですけど、
「心理療法への過剰規制に反対する嘆願書」(!)
というウェブ記事へのリンクだったりします。
.......皆様、読みたくない?
投稿: 阿世賀 浩一郎 | 2009年4月12日 (日) 00時43分
どの治療法も目標は同じなのでやることも似通ってきます。ただ、説明の仕方が違うと言うだけなんじゃないでしょうか。
また、認知行動療法がもてはやされているのは治療法の中で一番、治療効果が証明されているからです。(実験データの統計解析により)だから、イギリスでも低コストで確実に効果を挙げる認知行動療法が選ばれたのだと思います。
投稿: miso | 2009年7月 5日 (日) 01時03分
misoさん、ようこそ。
おっしゃるとおり、使う「概念」が違うだけで、熟練したセラピストの手にかかると、実際には似通ったものになってきてしまうという思いが私にも強いです。
その後調べましたが、イギリスの場合、サッチャー政権以降、医療は、民間病院で全額自己負担で受けるか、地域の公的な病院で公的保険適用で受けるのかという、徹底した二者択一システムになりました。
この結果、身体病に関しても、庶民が、高度な医療サービスを、公的保険が認めていないために、受けられなくなる弊害すら生じているようです。
うつ病を含む薬物療法についても、公的保健医療において、SSRIなどの高額な薬を使わずに済ませたいという動向が、特定の、効果が高いとされるセラピーにのみ予算を投下したいという思惑を生んだ側面があるようです。でもそうした側面は日本では全く報道されていません。
そうした中で、セラピスト養成システムそのものもシンプルに規格化しやすい認知行動療法セラピストの国家的養成という大胆な試みに進んだところがあると思います。
つまり、医療保険制度の、イギリスと日本の基本的な違い(更にはイギリスが相変わらずの「階級社会」であること)という問題に踏み込まないまま、このことを議論できないという当面の結論に至りました。
*****
記事でも書きましたけど、リサーチ上のデータのことを問題にする際に、「他の」心理療法(精神分析やクライエント中心療法)を行なった場合との「比較検討」という統計資料をまだ目にすることができていないのです。これは、もし存在するのなら是非目にしたいのです(この点については、何の皮肉も込めることなく、そう思っています)。
SSRI等の狭義の抗うつ剤「それ自体」によって鬱の治療が改善するのは統計的には30%ぶんの効果にしか相当しないそうです。適切な休息とお医者様との診察時の話し合いという「医師という名の薬」の果たす役割が大きいことは言うまでもありません。
極論すれば、流派に関係なく、どんな流派の心理療法やカウンセリングであろうと、ある一定水準の技量に達しているカウンセラーが、治療段階の適切なステージで実施する限り、薬物療法との併用で改善効果を「促進する」ことは、ほぼ間違いなかろうと思います。
(認知行動療法ですら、まだ重度の段階にあるうつ状態の患者さんや、不安障害、パニック障害なども併発している患者さんに性急に適用すると病状を悪化させる危険があることが知られています)
つまり、認知行動療法の研究者だけが、統計データを取ることに熱心である・・・・ただそれだけの違いであるに過ぎないのではないかという疑いが私の脳裏を去りません。
*****
もっとも、私は、同じ心理療法流派の中でも、いいカウンセラーとそうでないカウンセラーの落差の方がよほど大きいと思っていますし、いい現場セラピストは、ある特定の流派の療法だけでカウンセリングを進めているなど、実はあり得ないわけですが。
更に言えば、薬物療法についてのきちんとした認識を持っているかいないか、患者さんと医師との関係つくりをサポートする能力の違いという因子が絶対に大きいはずと考えています。
こうした点で、医師とカウンセラーの連携についてのシステム作りおよび研修のあり方、更に言えば、カウンセラーに対する精神医学の教育のあり方、日本ではまだ非常に未成熟な段階にあるとも感じられています。
今、やっと、日本医師会と日本臨床心理士会がいい意味での協調体制を取れる時代が訪れたようです。専門職大学院教育で、医療系大学院と臨床心理系大学院のクロスオーバーな連携は、やっと九州大学をモデルケースとして開始されたばかりです。
そうした中から、医療と心理療法の好ましい連携スタイルが生まれてくることを信じたいと思っています。
投稿: 阿世賀 浩一郎 | 2009年7月 7日 (火) 23時39分