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2009年3月13日 (金)

番組で「非定型うつ病」を積極的に取り上げなかったこと -NHKスペシャル 「うつ病治療 常識が変わる」への感想(5)- [第3版]

 さて、前回に続く連載を一気に第5回である。

 (そう簡単なことでは、番組後半の認知行動療法の話題に到達しないのが、この連載の最大の持ち味である^^;)

 今回のNHKスペシャル、「最近はうつ病の診断ももいろいろな種類に分化してきた」とまで解説しながら、ついに新型うつ病としてこの数年喧伝されてきた「非定型うつ病」については、この診断名そのものは一度だけ画面表示されナレーションに流れただけで、わずか2秒で済まされ、スタジオの参加者も言及しなかった(この部分、第2版で改訂)。

 まさにこの点もひとつの快挙であると私は考えている。

 (ひとつの逆説として述べているのであり、決して皮肉ではない

 双極性II型単極型うつ病診断と投薬の違いについて番組でここまで詳しく紹介したことの方が、はるかに優先事項だったともいえる。

 「双極性II型」については、日本においても、後述の「非定型うつ病」よりは、はるかに投薬のしかた(標準処方)が確立していることも大きいだろう。

 つまり、誤診の影響がはなはだしいことが医師の共通理解にすでになっているべき緊急性の高さがある。

 しかし、私はそれよりも以下の点を指摘したい。


*****

 
 実は、「非定型うつ病」についての診断基準は、DSMーIIIの段階から、1994年にDSM-IVに改訂される段階で大改訂され、非常に具体的に定義されるようになりました。

 非定型うつ病について解説されたサイトの少なからぬ部分では、

「1994年に診断基準が確立された

 と書かれています。

 私はこれはたいへん誤解を招きやすいところがあると思います。

 なぜなら、DSM-III(アメリカ精神医学会診断基準 第3版)の段階(1994年以前)でも、「非定型うつ病」という診断名は存在したからです。

 手元の「DSM-III日本語版」の方から引用します:


****

       ●非定型うつ病 Atypical Depression

 これは抑うつ症状を持つ患者で、「大感情障害」または「その他の特異的感情障害」、あるいは「適応障害」と診断することができないものに対する残遺カテゴリーである。例としては以下のものがあげられる:

(以下略)

****

 DSMという診断基準は、うつ病に限らず、すべてのジャンルで、いろいろと具体的に定義できる診断名と診断基準を掲げていった後で、最後に「これらの診断基準に十分あてはまらない場合」のための「残遺カテゴリー」を設置する、という構造を持っている。

 つまり、DSM-IIIまでに関しては、「非定型うつ病」とは、まさに"atypical"=「典型的ではない」うつ状態という意味でしかなかったのである。

 ところが、1994年のDSMの改訂において突如、「非定型うつ病」は、それ自体厳密で具体的な診断基準をもつ、独立した積極的な診断カテゴリーへと、急変してしまったのです。
 
 これは、「以前は曖昧だった診断基準が具体的に定義された」なんていうものではないというべきです。、

 DSM-IIIの段階とDSM-IVになってからでは、同じ「非定型うつ病」という病名でも、かなりの程度別のタイプのうつ状態を指す名称になった、という方が適切といいたくなるくらいなのですね。

 (実はこのようなことになったのにも、わけがあります。DSM-IVで細かく定義された意味での病態については、すでにかなり以前から、専門家の間では「非定型うつ病」の名のもとに議論されていたという「歴史的経緯」があるのです)

 そもそもこのことを、いくら一般の人向けの「わかりやすい」解説だとはいえ、まるで、時代の変化によって「新種の」うつ病が新たに「発見」され、蔓延するようになったみたいに解説する(これではインフルエンザウィルスの新種発見みたいである)のは、それこそ医師以外の非専門家をナメています(^^;)

 そこまでいわなくても、新たな誤解の火種をまく危険がある、とは申し上げていいでしょう。

 実は、DSM-IVにおける「非定型うつ病」にあたる病態は、「昔から存在していた」というのが適切であろう。

 そして、はっきり言いたい。

 少なくとも、具体的な診断基準を細やかに決めるなら、もはや「非定型」なんていう名称ではなく、新しい具体的な診断名ぐらいはつけるべきである!!

 「境界性人格障害」という名称が、本来「精神病と神経症の中間状態」を指すものだったのに、過剰に濫用されるようになった歴史をまた繰り返したいのか!!


*****


 更に思うこと。

 今回のNHKスペシャルは、「そうか、最近は、うつ病もいろいろ診断や治療法が多様化しているんだな」という印象を視聴者に残すだけに留まるだけでよしとしていない企画だと思います。

 控えめに言っても、番組企画当初の意図を、取材を進める中で越えて行ってしまい、その結果、ありがちなこの種の番組のパターンを超えたところまで行ってしまった番組と理解するほうがいいと思います。

 実際、予想もしない内容に「いつの間にか進化した」ゆえの構成上の歪みと、番組スタッフと、スタジオ出演のうつ病学会会長、野村医師の見解が少し違い、両者のせめぎあい(あるいは番組スタッフの間のせめぎあい)まで、注意深くこの番組を観ていると、透けて見えるあたりこそ、この番組を観る際の面白さであり、そして残念なまでの不完全さなのです。

 【第3版で追加】 その不整合の具体例と出演者のせめぎあいはこちらで読めます。


*****


 私がこの記事で、DSM-IV以降の「非定型うつ病」の診断基準や治療法を具体的に引用することをなかなか始めないのも、実は意図的なんです。この番組の真にすばらしい面を皆様と再度確認したいからです。

 つまり、

1.うつ病の診断と治療においては、医者の側に的確な診断能力が現状では意外なまでに不足している。

2.その原因としては、初回の投薬時からあまりにたくさんの薬を同時処方したり、患者さんが不調を訴えると、どんどに薬を増加させるために、もはや患者さんの症状のどこまでがうつ症状自体の表れで、どの薬が副作用を起こしているのかすら、名医ですらすぐには判断不能な状況が蔓延している。

   downwardleft

 そうした状況で、「非定型うつ病」を今さら紹介しても、その非定型うつ病の診断そのものが的確になされている可能性もまた低いのだから、

何を今さら!!

.........ということになる。


 これこそ、この番組の重要な隠れメッセージなのである!!



(第6回へ続く)


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コメント

初めまして。今回のNHKスペシャルについて
色々ブログの反応を見てみると賛否両論ですが、
自分は双極2型の報道を高評価しています。

その2での”画期的”という表現にひかれ、
続きを楽しみにしていました。

本エントリは大変強く訴えてますね。
その6があるとのことで期待してます。

>kodimaxさん

 コメントありがとうございます(^^)

 今晩中に、第6回(最終回!!)をアップします。もう書くことは頭の中では決めています。

 皆さんの予想をいい意味で裏切る意外な結末にする予定ですので、どうかお楽しみに!!

>kodimaxさん

ひょっとして、「ボーナス・トラック」の方が面白かったかもしれませんね(^^;)

 最終回と「特別編」を入れ替えても読めます。

 こうなったら、エヴァンゲリオンどころか、マーラーやブルックナーの交響曲の版の違いみたいなものです。

本日特別編拝見しました。
先に謝ってしまいますが、認知行動療法についても興味を持ったばかりでしたのでその辺は素人です。

こちらにはグーグルのブログ検索で最近辿り着いたばかりなので、ましてや膨大な過去ログのなかでも「フォーカシング」関連まで追いついておりません。
(実はプロフィールなどの仕事以外で自分との共通点や違う所を照らし合わせるほうに気が行ってしまってました。)

確かに門外漢からはその6より特別編のほうが流れ的にわかり易かったですし、番組制作のブレへの指摘も鋭いと思います。

ただ、毎回すごい文章量で版の更新もありブログの場合は1エントリー1オピニオンでないと自分はどうも消化不良気味でした。「来談者中心療法」という用語もなじみが無かったですし。

僭越ですがブログよりHPの形式が合っていると思います。ブログだから一気に勢いがついて書けるものだと思いますけど…
こちらの過去ログで最近のカウンセリングについて、おいおい勉強させてください。

>kodimaxさん

更なるご感想についてご催促してしまったみたいで私も恐縮してしまいます(^^;)

今回お寄せいただきましたご感想、今後のために役立てさせていただきます。誠にありがとうございました。

****

以下、これを機会に読者の皆様全体に向けて、いくつか問題提起したいこと:

 今回の番組における双曲性II型と気分調整剤の取り上げ方そのものがまだ一面的であるとお感じの方が、ネット内外、専門家・非専門家を問わずたくさんおられることは承知しております。

でも、

  ●問題点1
 「ネットでは常識水準」という発言を読んでいると、そういう皆様はすでに「事情通」の部類に属するように私には思われてしまえて(^^;)

「この番組の内容の水準を知らないままこの番組に感心している人たちは無知過ぎる」と、「事情通」のプライドがある人が、実は「多数派」であるのはまちがいないネットユーザーを愚弄しているかのように感じる人が少なからず(決して少数派ではなく)いるはずです(^^)

  ●問題点2
「ネットではこのくらい常識だ」という論調を読んでしまうと、この番組を観ない済ませ、詳しい内容を知りたい、自分なりに判断してみたいと感じる人たちの「意欲を削ぐ」だけとも思います。


  ●問題点3
 ネット上での、専門家と思われる皆さんが「ここで描かれているほど単純ではない」という一般論を述べることは、読者にとって今更何か役に立つと言えるのでしょうか???

 私は私のネット上でのスタンスが、現実世界での私のカウンセラーとしての評価に影響する可能性を、私なりに引き受けているつもりです。

 そして、私は、

「初心に帰って、一度頭を真っ白にして、番組や著作を正確に読み解こうとする」

というスタンスを自分から買って出る「専門家」がいなければならないことを確信しています。

*****

 kodimaxさんに限らず、時間を割いてでもここまでの私の連載記事をお読みいただいた皆様は、私が上記のことを、ネットで可能な形式で具体的に実践させていただいたつもりということは、どこかで感じてくださっただろうな.....と思っています(^^)

 

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