統計上の問題など。 -NHKスペシャル 「うつ病治療 常識が変わる」への感想(特別編1)- [第2版]
前の記事、最終回ではまだご不満の方もあろうかと思いますので、やっぱり「追加特別編」を書きましょう(^^)
番組の後半、認知行動療法についての部分には、大きな自己矛盾が内包されている!!
NHKサイトの、この番組についての公式ページでは、次のようにこの番組のことを紹介している:
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(前半略).....こうした中、薬の処方を根本的に見直す取り組みや、難しい診断が一目でできる技術の研究が進んでいる。また、「うつ先進国」のイギリスでは2年前から、国を挙げて抗うつ薬に頼らず、カウンセリングでうつを治す「心理療法」を治療の柱に据え、効果を上げている。うつ病治療の最前線に迫る。
*****
この番組の後半を実際に見ても、どうも番組制作サイドではこういうふうな流れでまとめたかったみたいなんだけど、その過程で、いくつか凄い勇み足を同時にやってしまっている。
以下の図版をまずはごらんあれ:

↑どう見ても大学の心理学の教科書!!
この画面で表示されているのは、ロジャーズ派カウンセリング=来談者中心療法についての、心理学の教養課程向けの教科書ですら実は結構見られる水準の解説の文章の断片ですね。
ここにオーバーラップして、ナレーションは、
「うつ病に対して、受容と共感的傾聴とする旧来の心理療法よりも優れた新しい技法として認知行動療法が認められて来ています」
と入る。
うつ病に対する認知行動療法の優位性は、日本でも十数年前からとっくに唱えられはじめtいたんだけれども、それは敢えて問わないことにします(^^;)
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【ここから第2版で追加】 そもそもこの番組、どの内容が最新トピックななのかの序列がわかりにく過ぎます。
すでにこの連載エントリーで具体的に示した話題に限定すると、恐らく、時系列的には、
1.うつ病における認知行動療法アプローチに、日本のカウンセラーにも関心が高まる
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2.「非定型うつ病」への関心が高まる。
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3.欧米で、双極性障害II型と単純なうつ病では、薬物の標準処方が全く異なるという認識が確立する。
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4.イギリスで、認知行動療法を、公に、うつ病の標準処方とする法律が国会で可決され、各地に公立で無料の「臨床心理センター」が開設され、公費での認知行動療法カウンセラーの養成がはじまる。
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strong>5.日本で、双極性障害II型と単純なうつ病では、薬物の標準処方が全く異なるという認識が広まり、心ある現場の医者の中に、そのことを実現するための十分なスキルが実現され始める。
........恐らく、こんな順序のはずですが(^^)
どうです? 番組の流れに全然一致しませんよね。 【ここまで第2版で追加】
******
そして更に、番組の流れは、イギリスでは、開業医に欝と診断されると、薬物療法ではなくて、地域の臨床心理センターの認知行動療法カウンセラーにまずは回されるという法律がすでに国会で成立して施行されている、ということを映像で描いていくのだが、この脈絡のなかで、次のような統計グラフを提示してしまった!!

↑ここで示された統計グラフは、「薬物療法だけ」の場合、「薬物療法と認知行動療法を併用した場合の再発率を比較したものである。
*****
Q : さて、教養課程で統計入門を学んだ、心理学に関心ない理系や社会科学系の大学生の皆様、この場面で比較のためには、実は最低もうひとつ、厳密には更にもうひとつ、もーっと念を入れると更に更にもうひとつのデータを加えて相互比較すべきなのですが、それはどういうデータでしょう?
A :
* 最低限絶対必要 : 「薬物療法と来談者中心療法を併用した患者の再発率」
* これもあったほうが厳密 : 「薬物療法を用いずに認知行動療法のみ適用した患者の再発率
* ここまでやったら完璧 : 薬物療法を用いずに来談者中心療法のみ適用した患者の再発率
百歩譲って、「薬物療法を用いない形で実験することは、人道的に許されない」というのなら、最初のひとつをだけでも加えて最低3群の比較をすべきではないでしょうか???
*****
次にこの4群がすべてそろったします。すると次のような結果のパターンのシミュレーションができますよね。
1.薬物療法なしだと、認知行動療法の再発率が来談者中心療法よりも明らかに高い/同じくらい/むしろ低い
2.薬物療法ありだと、認知行動療法の再発率は来談者中心療法よりも明らかに高い/同じくらい/むしろ低い
3.薬物療法なしの場合とありの場合で比較すると、認知行動療法においては再発率の違いがより大きい/同じくらい/小さい(4. と比較して)
4.薬物療法なしの場合とありの場合で比較すると、来談者中心療法における再発率の違いがより大きい/同じくらい/・より小さい(3.と比較して)
5.薬物療法がない場合、認知行動療法の方が来談者中心療法のよりも再発率が低い/同じくらい/むしろ逆
そして、極めつけは、
6.薬物療法も認知行動療法も来談者中心療法もすべでやらない場合=自然治癒を経た後の再発率が一番低い!!
というシミュレーションが結局正解(統計学的にも有意)の可能性が、ないとはいえないのが統計学なのです!!
(実際には、そうした多角的な統計を取ったのかもしれませんけど ^^;)
*****
もう皆様お気づきでしょうが、どんな心理療法を適用しても、薬物療法の併用が同じくらい効果が上がる可能性だってあるわけですね(^^)
イギリスでも、このような統計のマジックにだまされて(ごり押しされて)、法案は通過した.....ということだけはいくらなんでもないとは信じたいところです。
もしそうなら、全く別の意味でのスキャンダラスのドキュメンタリー、今流行りの「国策捜査」、もとい、「国策調査(統計)」になってしまいます(^^;)
*****
そして、そもそも日本うつ病学会理事長の野村医師の発言だけを追うと、どうも認知行動療法を特に推奨しようとする番組製作サイドの方向性に、あたかもブレーキをかけるようなアドリブ発言が各所に見られます。
認知行動療法について番組内で解説しているのは、よーく観ると、ナレーションと、取材した日本とアメリカの認知行動療法専門のカウンセラーだけなんですね!!
一方、野村先生は、
「認知行動療法だけではなく、他のカウンセリング技法を含めて」
だとか、
「薬物療法は、、ひとつの選択肢に過ぎないという捉え方も必要だけど、重要なものであることには変わりがない」」
といったアドリブ発言を、番組の最後まで繰り返しているわけですね(^^;)
私には、
「認知行動療法もいいけどさあ、そもそもお医者さん自身が、じっくり話をきくという、セラピー云々以前の水準の基本中の基本がなってないようではカウンセラー以前の問題だよ。正確な診断も投薬もできないとすれば、その医師は、カウンセラーも適材適所で有効活用できないんじゃないかなあ・・・・」
という野村医師の心のボヤキが聞こえてきてもおかしくないなと想像したのですが、思い込みすぎでしょうか?
【ここから第2版で追加】 少なくとも、「こんな思い込みも可能」と捕らえる提案をしてみることは、「物事の認知の枠組みを変え、生産的な方向で別の可能性を示していく」、という意味において、すこぶる「メタ認知行動療法的」かと思います(^^;) 【ここまで第2版で追加】
*****
最も善意に解釈すると、番組スタッフと出演者の間で、「番組制作を進めるうちに、当初の方向性とは思いもよらない形でバランスが狂ってしまった」という共通理解が成立していて、「もう手直しが間に合わないので、野村先生、アドリブでそのへん、できるだけ調整くださいますか」などどいう談合が成立していたのかもしれません(^ ^;)
私には、細かく丁寧に見れば観るほど、製作課程の舞台裏が彷彿と伝わる気がするという点で、実にスリリングな(?)番組でした(^^;)
(以上、特別編1でした。 特別編2はこちらです)
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